二次試験トーナメント二回戦・ヴァンジャンス

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二次試験トーナメント二回戦・ヴァンジャンス

 ミコルの説教地獄の中、ヴァンジャンスが次の試合へと呼び出される。チャンスとばかりにヴァンジャンスはいつになく、俊敏な動きでミコルの説教から抜け出し、舞台へと上がる。もちろん、そのままヒイロは、ヴァンジャンスの分までミコルからの説教を受け続ける。 「それでは試合を始めます、お互いに名前を」 「ヴァンジャンス」 「ティラノス」 「それでは……はじめ!」  ヴァンジャンスの2回戦目の相手は大きな棍棒を持った鬼人(オーガ)族だった。オーガ族は、獣人族をも超える肉体の強さを持つ種族であり、全種族の中で唯一、全ての属性魔法を使わない種族であり、己の肉体と独自のスキルでの戦闘に特化した種族だった。  試合開始の合図と共に、ティラノスはいきなり棍棒を舞台の地石畳みに振り下ろす。その凄まじい威力の振り下ろしにより、沢山の石飛礫がヴァンジャンスに襲いかかる。  流石のヴァンジャンスも横に回避したものの、広範囲に広がった石飛礫全てを避け切ることができなく、何発か、かすってしまう。それもかすっただけにも関わらず、刃物に斬られたかのように皮膚が切れ、身体の数カ所から血が流れている。  その魔法でもない、単純な力任せの攻撃でここまでの威力出せるティラノスの力の凄さに驚嘆していたヴァンジャンスであったが、何故か同様にティラノスも驚いた表情を見せていた。 「すごいなお前!俺の渾身の一撃必殺を避けるだけでなく、当たっても、かすり傷しかついていない!」 「そうか、少し安心した……今のお前の一番弱い攻撃だったら、少し苦戦をしていだだろうからな」 「へぇー、少しか!?それはすげーな!!なぁヴァンジャンスと言ったか?お前、自分の身体に結構自信あるだろ?それならよ、俺と喧嘩しようぜ!ただの殴り合いだ!なっ、面白そうだろ!」  見た目は鬼人族だけあって、知識人族からしたら見た目おっさんだったが、中身は12歳前後の年相応の幼さを見せるティラノスに、普段クールなヴァンジャンスもクスッと少し笑ってしまう。 「……バカか、どこにお前みたいな力馬鹿と殴り合いなどする奴がいる……だが、お前のその真っ直ぐなところは、どっかの泣き虫正義馬鹿と似ている。いいだろう……だが、俺は強いぞ、痛くても泣き出すなよ」  ヴァンジャンスは言葉通り、正面からティラノスに殴りかかる。そして、ティラノスもまた嬉しそう笑いながら殴られ、嬉しそうに殴り返す。そして2人は足を止め、ノーガードのまま、その場で殴り合う。 「楽しいなぁ!ヴァンジャンス!!城でも家族でもこんなに俺と向き合ってくれたのはお前が初めてだぜ!」  その凄まじい殴り合いは、ヴァンジャンスが数発殴ると、ティラノスが重い一発を放ち、お互い一歩も下がることなく、殴り合い続ける。そのうち、試験会場全ての注目を集めはじめ、さらに殴り合いは加速し、試合が長引くと思われた瞬間、その直後勝負がついたのだ。  きっかけは簡単だった。ある男の一言だけ。 「ヴァ~ン、勝手に盛り上がるのはいいけど、これ以上長引くとミコ姉が泣くぞ~」  ヒイロの言葉にヴァンジャンスがギクっとなり、一度殴り合いから距離を取り、横目でミコルを見る。そこには涙目で必死に涙を堪えながら、心配そうにしているミコルがいた。 「……ティラノスと言ったか、悪いがこれ以上は付き合えなくなった。いつかまた、同じ条件で勝負をつけよう……」 「そんなこと言って……この状況で俺を倒せる奥の手でもあるのかよ……」 「ある。悪いがあんまり泣かせたくない人がいてな……《デウス・エクス・マキナ》」  ヴァンジャンスの周りにバリアが形成され、ティラノスが再び殴りかかろうとしたが、そのバリアに弾き飛ばされる。そして、そのバリアの中に次々と漆黒のパーツが現れ、ヴァンジャンスがその漆黒のマシーンパーツに包まれていく。 「な、なんだよそれ……そんな魔法もスキルも見たことねぇぞ……」 「あぁ、俺だけの力だ。そして……悪いが一瞬だ」  ヴァンジャンスに全てのパーツが装着されると、会場全体に凄まじい突風が吹き荒れ、金色の2本角が目立つ漆黒のフルマスクと、全身に紫の魔力線が流れる漆黒のアーマーをきたヴァンジャンスが現れる。そして、次の瞬間、ヴァンジャンスが地面を爆発させたかのように蹴ると、凄まじいスピードでティラノスに殴りかかる。  ヒイロ以外、ごく少数しか反応出来ないスピードに対し、ティラノスはほぼ反射的に腕をクロスしてガードをする。だが、ガードの上からヴァンジャンスの強烈な一撃にティラノスは吹き飛ばされ、試験会場の強固な壁にめり込むように衝突した。最も強く、強固な肉体を持つと言われている鬼人族であっても、その凄まじい威力にティラノスは気を失ってしまった。 「しょ、勝者……ヴァンジャンスー!!」  ヴァンジャンスは、元の姿に戻ると息一つ乱さず、何事も無かったかのように試合の舞台から降りてヒイロ達の所に戻り、ヒイロと拳をグーにして、タッチをする。そして、ノミルも先程の凄まじい殴り合いを心配して、ヴァンジャンスに声をかける。 「ヴァン、勝てて良かったが殴られた所は大丈夫か?かなりのダメージになったと思うが……、なんなら俺が回復魔法で治してやるか?」 「ありがとう父さん。でも、大丈夫。俺のあの能力には、ある程度の身体的ダメージを瞬間的に治してくれるんだ」  ホッとするノミルに対し、ヒイロがニヤニヤしながら一言ボソっと呟く。 「まぁ、これから回復出来ないほどの精神的ダメージが来るけどな」 「なっ!?」  ヒイロの言葉に反応する前に、ヴァンジャンスは背後から悪寒を感じ、振り向くとそこには、鬼人(オーガ)族より怖い形相で涙目のミコルが仁王立ちしていた。
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