二次試験トーナメント二回戦・ヒイロ

1/1

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

二次試験トーナメント二回戦・ヒイロ

 試合後、再びミコルに説教を受けるヴァンジャンスを笑いながら、舞台に向かうヒイロにノミルが声をかける。 「なぁ、ヒイロ……お前もヴァンと同じように特別な力があるのか?」  ノミルの心配そうな顔に、ヒイロは笑顔で返す。 「まぁね!……でも、心配しないで父さん。今の俺達は、自分の身を自分で守れるくらいの力は持ってるからさ」 「そうか……。だけど、無理するなよ。子どもを守るのは俺の……親の、勤めだからな。」 「うん、ありがとう父さん」 (良い父親ではないか……。お主は前世もそうじゃったが、お主は良い家族に恵まれる) 「ありがとう、師匠。今の俺とヴァンがいるのは父さんと、ミコ姉のおかげだよ。それと師匠……次の戦い、力を貸してくれないかな?あんまり父さんやミコ姉に心配かけたくないんだ」 (そうだろうと思ったぞ。思う存分に使うが良い……) 「ありがとう」  ヒイロの相手は炎龍種の龍人族の少女だった。次に当たるだろうと、その子の一回戦目を見ていた。はっきり言って、強かった。ここにいる受験者の中でも、先程ヴァンジャンスの同じく、かなり強い部類に入るだろう。それにノミルに聞いたが、龍人族はその属性に特化した特性があり、炎龍種は炎属性への完全耐性そして、氷属性にも強い耐性をもつ種族だった。 「それでは、お互いに名前を」  試験官が2人の間に立つ。 「ヒイロ」 「ヴァスィリサ」 「試合、はじめ!」  初めに攻撃を仕掛けたのはヒイロだった。 (女の子か……やりにくいな。まぁ仕方ない……炎龍種ってことは炎属性の魔法と氷魔法に強いんだよな……まぁ、とりあえず反応を見てみるか)  ヴァスィリサと言う炎龍種の少女は、その場を全く動こうとしなかった。そのせいもあり、ヒイロも様子を伺い、距離をとっていく。 「それじゃあ、いくからね!炎魔法 フレイムボム!」  ヒイロは、あえて炎属性の中級魔法である《フレイムボム》を放つ。大きな火の玉が避けようとしないヴァスィリサに直撃し、爆発したかのように大きな炎が燃え上がる。 (避けようとしないのか……ん?)  大きく燃え広がろうとしていた炎が、急に吸い込まれるように、急激に小さくなりそのまま消えてしまった。 「ふぅ美味しかった。あなたの炎、優しくて暖かい。……だけど、どれだけ大きい炎も私にとってはただのおやつ。炎の魔法しか使えないのなら、あなた諦めた方がいいわ」  その小さな可愛いらしい姿とは逆に、かなりの圧を出すヴァスィリサ。ヒイロは、その圧力よりも単純にその龍人族の特性に感激していた。 「すっげー!!炎を吸って熱くないの??というか、心配してくれてるのかな?ありがとう!!でもそのほかにも属性魔法が使えるから大丈夫だよ!」 「……そう。あなたは私のことを恐れないのね。じゃあ今度はこっちからいくね」  ヴァスィリサが背中の大きな羽を広げたかと思うと一瞬で空に舞い上がり、上空からヒイロに向けて、口から火球を吐き出す。 「なっ、空を飛ぶのも早い!くっ、氷魔法 アイシクルウォール!!」  ヒイロは、瞬時に氷の中級魔法 《アイシクルウォール》を唱え、相殺しようとする。  ヒイロの目の前にいくつもの氷の氷柱が突き出し、ギリギリでヴァスィリサの火球を止める。だが、その威力はアイシクルウォールを融解させ、その爆発の威力でヒイロは場外寸前で吹き飛ばされ、なんとか体勢を立て直し着地する。 「その氷魔法、確かに守る強度は高いけど、私の炎の前ではすぐに溶けちゃう。せっかく二属性の魔法使えるのに、氷と火じゃ私との相性最悪……残念」 「いや、もう一つ属性使えるんだけど……キミは俺のさっきの試合見てなかった?」 「あなたが勝つと思っていた。だから、試合自体は見ていない。……三属性も使えるの?あなた知識人族でしょ……すごい」 「ありがとう……でも、それだけじゃないところを見せなくちゃいけなくなったんだ。……《神獣合体》氷神シヴァ」 (こら!いつも師匠をつけろと言っておるだろう!!……ふん、まぁいい、《ケリュケイオンの杖》じゃ、心配症の家族にお主の真の力を見せつけてやれ!) (ありがとう、師匠)  ヴァンジャンスとヒイロにしか見えない、白銀の尻尾と狼の耳を持った、薄い青色の着物を着た雪のように白い美しい少女が現れ、ヒイロと重なる。そして一瞬の閃光と共に、綺麗な雪の結晶が散りばめられた真っ白なローブと着て、氷でできた杖を持ったヒイロが現れる。 「……何?その姿……そんなスキルや魔法見たことない……。一瞬光ったと思ったら……でも!見たところ氷属性……それでは私には勝てない……」  ヴァスィリサはそう言いながらも、抗えない不安を感じていた。たしかに炎龍種は氷属性に対しても強力な耐性を持っている。だが、絶対ではない。 「ごめんな、ヴァスィリサ。この状態だとうまく手加減できない。なんとか耐えてくれよ……《アイシクルバレット》」 「そんなの初級魔法じゃない……バカにしてるの……!?」  一瞬、ヴァスィリサが動きが止まった。それは何故かあり得ない現象が目の前に起きているからだ。氷属性の初級魔法 《アイシクルバレット》……本来のものは握り拳程度の氷の弾丸を数発打つ魔法のはずだった。だが、目の前のそれは人の頭より大きい氷岩が数十発と現れていた。  ヴァスィリサは、一瞬の思考停止により、避ける時間を無くしてしまったため、瞬時に翼で身体を覆い、さらに自身を炎で包み込む。ヴァスィリサ最大の防御形態であり、氷属性には絶対防御とも言える状態でもあるはずだった。  だが次の瞬間、ヴァスィリサはヒイロの《アイシクルバレット》の威力に場外に吹き飛ばされていた。それも身体を覆っていた炎は完全に消え、自慢の翼や身体は氷で霜焼け、凍傷を起こしかけていた。 「勝者、ヒイロー」  ヒイロは、勝負ついた後、すぐに元の姿に戻り、ヴァスィリサに近寄る。そして、ダメージと凍傷で動けない彼女に火属性の初級魔法を優しく与え、身体を温めていく。ヴァスィリサはゆっくりとヒイロの炎を食べながら徐々に回復していく。 「大丈夫か?」 「ありがとう……やっぱりあなたの炎は美味しい……」 「良かった!じゃあまたな」  駆け去っていくヒイロを見ながらヴァスィリサは呟く。 「同世代に初めて負けた……ヒイロというのか……父上の言った通り世界は広い……。」  危なげなく、試合に勝てたヒイロは、ミコルに説教をさせることなどないだろうと余裕の笑顔で戻ってきたヒイロは、衝撃を受ける。またしてもミコルが鬼の形相で待っていたからだ。 「えっ!?どうして!?心配させることなく終わったでしょ!?なぁ父さん、ヴァン!!」  必死の訴えのヒイロと目を合わすことの出来ないノミルとヴァンは横や下を向きっぱなしである。 「わ~た~し~は~、あなたを女の子を傷つけるような子に育てた覚えはありませーーーーーーん!!!」 「!?……えっ、えー!!だ、だって試合!?」 「言い訳は聞きません!!そこに座りなさい!!」 「……そんなぁ~」  結局ヒイロも試合後、ミコルの説教を再び受けることとなった。ただ今回の二回戦で、学校側で優勝候補と言われていた鬼人族の皇子であるティラノスと、七龍王の一人、炎龍王の娘であるヴァスィリサが倒されたことで、学校側では問題が起きていた。  そんなことも知らずヒイロとヴァンジャンスもまた、ミコルの説教に耐えながら、危なげなく3回戦も勝利し、無事二次試験を合格する。そして、2人による学校側の想定外の出来事によって、それ以降の試合は学校側の判断により無くなり、その日のうちに二次試験トーナメントは終了したのだった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加