最終試験・魔獣討伐戦1

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最終試験・魔獣討伐戦1

 翌日、再びヒイロとヴァンジャンスは、イアールンヴィズの森に来ていた。森の入り口では、昨日まではなかった騎士学校最終試験の特設会場が設置されており、アインの冒険者ギルドと連携しているのか、これから五日間、一般の冒険者達は立ち入り禁止と掲示されていた。  ただ学校からの要請なのか、いくつかの冒険者パーティーの姿が見える。たぶん警備や護衛としてクエスト受注があったのだろう。事前の説明でも今回の試験では危険が伴うため、安全上の都合により、受験生以外は会場に来ては行けないとなっていたため、ノミルとミコルは家で待っていた。そのため、ヒイロとヴァンジャンスは2人で会場となっている特設テントの中に入っていく。  会場には、二次試験を通過したと思われる25人程のの受験生がおり、その中には、ヒイロとヴァンジャンスが二次試験で戦い、倒したため、脱落になったはずの鬼人族のティラノスと炎龍種の龍人ヴァスィリサの姿があった。2人は知り合いなのか、一緒におり、ヒイロとヴァンジャンスに気付くと2人の方から話しかけてきた。 「よう、我がライバル、ヴァンジャンス!また会えて嬉しいぜ!」  ティラノスの言葉に首を傾げながらヴァンジャンスがこたえる。 「……確かティラノスとか言ったか、別にライバルになった覚えはないが……」  ヒイロもまた近づいてきたヴァスィリサに話しかける……と言うよりかは必死に謝っていた。もちろん、ミコルの呪い……ではなく、説教による反射的行動だ。 「ヴァスィリサさんだよね!?この前は怪我をさせてしまい、本当にすいませんでした!!」  ヴァスィリサもまた、ヒイロの行動に首を傾げながら応える。 「……確かにあれだけ一方的にダメージを受けたのは初めて……でも、戦いだから仕方ない。謝ることない。むしろキミの強さは、尊敬に値する。」  ヒイロの姿にヴァンジャンスが呆れながら2人に質問する。 「それよりお前たちは失格になったんじゃないのか?」  ヴァンジャンスの質問に2人が答える。 「昨日、二回戦以降で負けた者同士での復活戦が行われたの。」 「それで、前衛職がオレ。そして後衛職がヴァスィリサが勝ち抜いて通過したわけだ」 「確かに……お前は三回戦に戦った奴よりも遥かに強かった」 「それは当たり前。私とコレは元々優勝候補。二回戦で負けることなんてないはずだった。だからキミ達が異常。」 「そうだぜ。オレとヴァスィリサはこう見えても、鬼人族と龍人族の筆頭王族で、どの種族であっても同世代でなら、負けたことなんかなかったからな」 「キミ達は本当に劣等種って言われてる知識人族なの?」  3人の話しを聞いている内にいつもの様子に戻ったヒイロが笑いながら話す。 「たぶんね!それより皇子様と皇女様かぁ!そう言われてみると、なんかやっぱり育ちが違うような……、なぁヴァン?」 「……オレには分からん。それよりそろそろ試験が始まるぞ」 「おっと、そうだった。俺達は一応会場に身内がいるから、戻らなきゃな。それじゃあまた後で」 「またね」  ティラノスとヴァスィリサが来賓席の方にいる見るからに偉い人達のところへと戻っていく。ヒイロが2人の姿を無意識に追って行った時、ある人達の姿が見えた。 「おい!ヴァン!!あれ、昨日の人達だ!」 「……ん、そうか!騎士学校の関係者だったのか」  そこには、昨日子どもを一緒に助けてくれたアンラ達の姿があった。来賓紹介で名前が呼ばれ、3人は騎士学校本部の偉い人だったらしい。2人がポカンとした表情で見ていると、視線に気付いたのか、龍人族の綺麗な女性アグレイアが2人に目を合わせ、ウインクし、両隣にいたアンラとルシフェルに肘打ちし、知らせる。ルシフェルはこちらを見て微笑み、アンラは笑いながら、試験官が説明を行なっている試験会場の空気を読まず、両手を振って騒いでいた。そのアンラの姿に受験生達がザワついたたため、ヒイロとヴァンジャンスは軽く会釈をし、後方に隠れたのだった。  試験の内容はこうだった。 一、各々5人ずつのパーティーに分かれ、魔獣を討伐する。 二、魔獣はランク毎にポイントがあり、5チームのうち獲得ポイントの高い上位2チームが合格となる。 三、期間は、初日のパーティー決めと準備、最終日の合格発表を除いた3日間となる。 四、魔獣Gランクが1匹につき1ポイント、Fランクは5ポイント、Eランクは10ポイント、そしてDランクは50ポイント、Cランクは250ポイントとなる。また時々規格外の受験生もいるため、500ポイントに到達した時点で合格という、後付けで出来たようなルールもあった。  ヒイロとヴァンジャンスはそれを聞いて、とりあえず別のチームになろうとしたが、お互い知識人族と言うだけで、誰も相手にしてくれないため、仕方なく2人で組み、残り3人は余った人達になるだろうと待つことにした。  ところが予想外の事に、会場の隅っこで他チームが決まる様子を待っていた2人に、他の受験生達から囲まれ、大人気だった2人がヒイロとヴァンジャンスのところにやってきた。 「お前らこの中で、一番強いはずなのに不人気すぎるだろ」 「私、仲間にするなら自分より弱い奴は認めない」  やってきたのティラノスとヴァスィリサだった。その2人にヒイロはラッキーと指を鳴らし喜んだ。だが、ヴァンジャンスは無表情に応える。 「組んでくれるのはありがたいが、5人で1パーティーだろ、もう一人足りない」 「それなら問題ない。もう一人はティラノスが縄で縛って連れてきてる。」  そう言われ、ヒイロとヴァンジャンスが身体の大きいティラノスの後ろを覗き込むと、縄で縛られたかなり小さな男の子が喚きながら引きづられていた。 「コイツ、ノーム族のソフォスと言って、能力は文句なしなんだが、かなりの臆病でな。こうして縛っておかないとすぐに逃げようとするんだよ。」 「ちなみにコレもノーム族の王族。支援、回復が得意。戦闘は……ゴミ、クズ、カス」  ヴァスィリサの言いように戸惑いながら、ヒイロが自己紹介をする。 「ひ、ひどい言われようだな。ソフォスくんだっけ、知識人族のヒイロとこっちがヴァンジャンス。よろしくね」  ヴァンジャンスも腕を組みながら、軽く会釈をする。その挨拶に、恐る恐るソフォスは振り返り、ヒイロとヴァンジャンスを見比べた瞬間、ヒイロに抱きつく。 「助けておねーさん!こわいよー!」  その言葉にソフォスとヒイロ以外の3人は笑い、ヒイロは少しキレ気味ながら、笑顔でソフォスをティラノスに投げるように返す。状況を掴めないソフォスはティラノスの方を戸惑いながら見る。 「おい、ソフォス。ヒイロは男だぞ。それもオレやヴァスィリサよりも強いな」 「えっ……う、ウソだ!?お前達より強い子どもがいるのか!?」 「いる。少なくとも目の前に2人……」 「観念しろ。そろそろお前も王族としての自覚を持って行動した方がいい。特にお前はオレ達より希少なスキルを持っているのだから堂々としていろ。出ないと舐められるぞ、かつての知識人族に成り代わろうとしている獣人族とかにな」 「いやだぁ、僕は布団に入って本を読めれば他に何もいらない~」 「騎士学校の図書館、世界のあらゆる本が所蔵されてる。寮生になれば、いつでも好きなだけ読める」  ヴァスィリサの言葉にティラノスがニヤッと笑い、相槌を打ちようにさらに言葉を並べる。 「そして、その寮には優秀な生徒の為に世界最高峰の高級ベットが完備されているらしく、その心地良さはどの種族の王族も羨むほどらしいぜ」  その言葉を聞いたソフォスは、一瞬で縄を抜け、いつのまにか先頭に立ち、キリッとした顔つきでどこか遠くの方を指差し、4人に命令する。 「お前達、早く魔獣倒してこい!僕がお前達を何倍にも強くしてやる!怪我しても全て治してやる!だから死ぬ気で行って来い!!」  その後、この5人は騎士学校創立以降、2度と破られることのない最速記録での試験合格をするのであった。
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