予期せぬ結果

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予期せぬ結果

 そのままティラノスとヴァスィリサの質問責めはスタート地点でもあり、ゴールでもある森の入り口まで続いた。ヴァンジャンスは我関せずと全てを無視し、そんなことは出来ないヒイロが2人の集中口撃を浴びることとなっていた。  また一方ソフォスは合格条件をクリアしたことで、サボろうとしていたところをヴァンジャンスに掴まれ、睨まれながら、索敵魔法により魔獣に合わないようにしながら最短でゴールに向かうように先導をさせられていた。 「……ま、まぁそんな感じでみんなの力で合格ポイントを貯められたんだからさ!」 「だーかーら!どうやってCランクの化け物を倒したんだって!?」 「私も気になる、どうしたらそんな強くなる?」 「ヴァーン……助けてくれよー……」 「ヴァーン……僕も、もうサボろうとしないから離してくれよー……」 「……。」  そんなこんなでゴールである森の入り口に設置してあるテントの中に入る5人。そこには学校関係者の係員が試験の進行具合などの情報を、通信魔道具片手に慌ただしく整理していた。5人は、せっかく合格ポイント集めてゴールしたのに誰にも相手にされず、少しその場で立っていたが、しびれを切らしたヴァンジャンスが、ヒイロに目で訴え、係員に声をかけさせる。 「あの……すいません……俺たち……」 「……あぁ何!?どうしたの?リタイア?まだ諦めるには時間がある、早くないか?それとも誰か怪我でもしたのか?」 「あ……いや、じゃなくて合格ポイントをクリアして……」 「はぁ?……あのね……キミ、説明よく聞いていたかな?合格ポイントは50ポイントじゃないよ!500ポイント!大体、この合格ポイントも普通3日でクリア出来るポイントじゃないから!」 「……いや、だからその500ポイントを……」 「はいはい、1日目で50ポイントはかなり良いペースだから、その調子で頑張って!」 「……。」  全く聞く耳を持たれないヒイロは、半泣きで5人のところへ戻る。  ソフォスとティラノスはその様子を見て笑っていたが、そろそろ我慢の限界のヴァンジャンスが、ティラノスとソフォスを睨み、顎で笑っていたその2人を行かせる。 「あの……すんませんが、俺らのグループ、合格ポイントクリアしたんですが……」  今度はティラノスとソフォスが見ていろと言わんばかりに、ヒイロを見てから係員に声をかける。 「だ~か~ら……!?確か……鬼人族の王子……と、ノーム族の王子……」  ソフォスは、宙に身体を浮かせ、先程ヴァンジャンスから渡されたヒイロが持っていたポイントカウンターを、係員の目の前にグイッと持ってくる。 「……ん!?ごじゅ……550ポイント!?ほんとに!?ただいま、お待ちください!試験官をお呼び致します」  その係員は、急いで運営本部のあるテントの奥へと走っていった。ティラノスとソフォスはその様子にドヤ顔で振り返り、ヴァンジャンスは無言で「よし」と頷き、ヒイロはヴァスィリサに頭を撫でられながら慰められていた。 「ヒイロ、大丈夫。あなたはあの2匹より強い。龍人族は強さこそ正義」 「ありがとうヴァスィリサ……でも俺、知識人族……」 「……ティラノス……僕達、今、2匹って……」 「……気にするなソフォス……きっと空耳だ……」  何故かゴールしたはずなのにかなりの精神的ダメージを受けてうなだれている3人。そこへさっきの係員に呼ばれてきた試験官がやってくる。 「すまんが君達のポイントカウンターを見せてくれ」  その言葉に持っていたソフォスが素直に渡す。 「……正常のようだ……討伐魔獣は……何!?Dランクのガルム6体に、Cランクのギンガルム!?ちょっ……ちょっと待ってくれ!!」  その試験官はヒイロ達のポイントカウンターを持ってまたテントの奥へと走り出す。その様子にティラノスとヴァスィリサは何故か納得している。 「……だよなぁ、普通はあの反応だよな……」 「うん……あれが普通」  しばらくすると複数の試験官と冒険者らしき女性が一人がやってきた。 「……本当だよ。その子たちは真正面からガルムと戦って討伐したのさ……悔しいけど、私らのCランクパーティーでさえ、ギンガルムとガルム4匹を真正面からなんて倒せないけどね……特にその知識人族の2人……バケモノよ」  どうやらその猫人種の獣人族女性冒険者は、受験者達の護衛兼監視員だったらしい。その言葉に複数の試験官達も唸りながらも納得するしかなかった。この女性冒険者を含め、試験に携わっている冒険者達は、皆、冒険者ギルドから厚い信頼を受けている者しかいなかったからだ。  そして、さらにある人物がヒイロとヴァンジャンスのことを推す。試験官の中には、ティラノスやヴァスィリサのおかげだと思っている者も少なくなかったが、その考えを頭から否定することとなった。 「ま、当然の結果だな。各王族自慢の子ども達に、ヴァンくんヒイロくんだからな!」 「こ、これはアンラ様。こちらの知識人族の子ども達をご存知なのですか?」 「あぁ、共に戦った仲間だからな。この子らは強いぞ~。ガルム程度なら、数匹をそれぞれ一人で圧倒出来る。」 「!?」  そこにいたアンラと女性冒険者、そしてティラノス達以外の全ての人が、その言葉に驚愕する。その反応にティラノスとヴァスィリサはうんうんと頷く。 「と、言うわけで、君達はもちろん合格!そして、アグレイアとルシフェルとも話し合ってね、君達5人はそのまま騎士学校の本校入学決定ね!」 「!?!?」  今度はヒイロ達5人が、アンラの言葉に驚愕していた。 「ちょっ、ちょっと待ってください!俺は鬼人族のティラノスと言います。本校って確か、ナーストレンドの首都 《ヨルズ》にある?」 「ち、父上の許可が……」 「そこに最高級ベットと図書館が!?」 「ヴァン……どこそこ?」 「わからんが、遠いところなのは確かだな」 「じ、じゃあ父さんやミコ姉は!?」 「……行くなら……離れることになるかもな……」 「……え!?無理無理!!絶対無理!!」 「まっ、とりあえず俺達の方は、君達がすでに分校のレベルではないと判断したんだ。たぶんその方が君達にとっても学ぶことが多いと思うぞ」 「そ、そりゃもちろん、いつかは好成績で本校に行こうとは俺もヴァスィリサも思っていましたが……」 「う、うん。でも、今すぐは……」 「えっ、だってそこにベットと本はあるんだろ?悩む必要あるのか?」  その言葉に他の4人は、一度ソフォスの顔を見て、大きくため息をつきながら、やれやれと首を横に振る。 「……え?何?なんで僕を見て、みんなため息をつくんだ!?」 「……ま、まぁとりあえず君達は、他の受験生より2日も早く合格を確定しているのだから、家族と相談するなり、じっくり考えると良い。何か家庭の事情や困ったことがあるなら、俺たちは、2日後の合格発表まではここにいるから、いつでも相談するに来るがいい。特にアグレイアやルシフェルもいるから、アイツらなら大体のことは解決してくれるだろう。それでは諸君、歴代最短記録をおめでとう、お疲れさんと!」  そうして笑いながらアンラは去っていった。5人は、アンラと別れた後、ほぼ無言のまま解散した。もちろんティラノス達3人は、一緒にこの街に来ている家族の元に。ヴァンジャンスとヒイロも、帰りはほとんど会話が無いままノミルの所へと真っ直ぐに帰った。家に帰るとそこには、いつものように教会の掃除をしているノミルと食事を作るミコルの姿があった。  ノミルとミコルは、浮かない表情をして予定よりも2日も早く帰ってきた子ども達を見て、驚きつつも慰めるようによしよしと頭を撫で、何も聞かずに優しく出迎えのだった。
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