最初の世界 《エル・ドラード》

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最初の世界 《エル・ドラード》

 この物語の最初の舞台となる世界もまた、ある尊き1柱の神が創世し、管理する世界(エル・ドラード)。そして、その世界を創造した神の名は怠惰の(アケディアス)。  アケディアスは、神になってしばらく経つものの、邪神や悪神と言われる類いではなかったのだが、大層怠け者で、数百年、数千年と寝てばかりおり、神の役割である世界の創造と管理を今までサボっていたのである。  ある時、それを見かねた周りの神達が、眠っていたアケディアスを叩き起こし、無理やり世界を創造させた。仕方なく怠け者のアケディアスは、細かな管理をしなくても、すぐに発展できるように、とりあえずなんでもありの恵まれた世界を創造する。  そうして創られた、黄金郷(エル・ドラード)と名付けられたその世界は、金や銀とダイアモンドなどの宝石から、武器や兵器に使う特殊な鉱石、栄養価が高い果物や野菜、食料となる小動物、そしてあらゆるものに応用できる万能な魔源と呼ばれる魔法の素となるエネルギーなど様々な資源を豊富に作った。また他にも、動物や魔物、様々な種族やその特性、スキルなども、要領良く適当に他の神の世界のものをコピペするかのようにたくさん真似て作ってはその世界に次から次へと突っ込んでいった。  そのため、その何でもありの恩恵は、空や森、平原、海の土地から火山や深海など特殊な土地などのあらゆる土地で、多種多様な種族が進化、発展し、それぞれ自分達の住む土地だけで、成り立ってしまった。それほど恵まれた資源があったのだ。そして創造されてから瞬く間に世界は安定し、繁栄していくのであった。  アケディアスはその様子に満足し、使命は終わったとばかりに大好きな眠りにつく。  それから1000年も経たずに、エル・ドラードに住む多くの種族はそれぞれの土地で急激に、そして独自の発展が進んでいく。ある種族は個の強さだけを求め、また、ある種族は自然とともに同化するようになり、またある種族はものづくりに没頭するなどしていた。  他にも魔源の可能性を見つけ、《魔法》という万能な力を習得し、魔法の可能性を求める種族。同じく《スキル》という力をそれぞれの種族が求める独自のものに改良したり、稀に持って生まれた特殊な力を集め、スキルの進化を求めた種族、そして最も発展したのは魔法と科学の力を求めた種族だった。  魔法と科学を求めたその種族は高い知力はあったものの、他の種族に比べ、圧倒的に個の力が弱く、寿命も短かった。そしてその種族のほとんどが強いスキルや高い魔力なども、持ち合わせていなかったのだ。  その種族の名前は知識人族。自らの住む土地にあった資源を最大限に使い、高い知力の元、凄まじいスピードで発展していった。他の種族はある程度、発展したところで安定や別なものを求め落ち着いたが、知識人族だけは飽くなき向上心で発展を続けていった。  そして、案の定住んでいた土地の資源をすぐに使い尽くし、新たな資源や居住地を求めて他種族の土地を奪いにかかる。それによってそれからのエルドラードは、知識人族の一方的な侵略行為によって、急激に争いの世界へとなっていった。  争いの世界になって半世紀、それまでじわじわと周りの土地を侵略しながら更なる繁栄をしていた知識人族だったが、その時代の王の後継ぎ、双子の王子が圧倒的なカリスマ性と凶悪な力、さらに突出した魔法科学文明による軍事力と組織力により、他種族を圧倒し、次から次へと侵略が加速していく。  そして多くの他種族を迫害、奴隷として扱い、幾つもの土地と資源を奪い、絶滅へと追い込んだ。そして、いつからか知識人族以外の知性を持った人型の種族を、侮蔑の意味をこめて亜人種と呼び、全種族の頂点であるかのように振る舞っていったのだ。  知識人族だけが何故、それほどまでに突出した科学力と組織力を誇ることが出来たのか、理由はただ一つ。どの種族よりも非力なはずの知識人族が唯一ずば抜けて高かったもの……それは欲だった。知識人族の果てない欲が他の種族を圧倒したのだ。逆に他の種族は元からの潜在能力が高かったにも関わらず、日々の生活に満足し、争いを好まなかったため、欲深い知識人族に一方的に侵略され、数多くの種族が絶滅しかけていた。  海に住んでいた人魚族、森に住んでいた妖精族などがその代表であり、空には翼人族、他にも多くの種族がいたが、知識人族によって絶滅に追い込まれ、その殆どが希少な存在となってしまった。ある意味、自然という弱肉強食の世界で、生存競争の争いに負け、自然界から淘汰されたと言えば、そう言えるだろう。だが、それは許されることではなかった。  神 アケディアスは自分が寝ていても世界の異変に気付き調整するように、管理代行者なる種族を作っていた。それが天使族。  神に匹敵する力を与えられ、神の代わり神罰を執行する種族。普段は翼人族よりも高い天空と呼ばれる所に住んでおり、知力、魔力、身体能力をはじめ、独自のスキルなど全ての面であらゆる種族を上回っている種族であった。  そして、その管理代行者なる天使族に知識人族は神の裁きを受ける。  盛者必衰。知識人族が優れた文明を誇り、このエルドラードという世界を支配し、他種族の犠牲の元に絶頂期を迎えた時、それは突然起こった。  《カタストロフィー》神アケディアスが天使族に与えた最大の権限。その天使族による神の代行者としての神罰が降ったのだ。  《カタストロフィー》の反応に、久しぶりに目覚めたアケディアスは、自分が創造した世界が紅く、黒く、そして争いと悲しみに満たされた世界になっていた事に気付く。またさらに、天使族には《カタストロフィー》を使う際にはアケディアスに許可を取ることを伝えていたはずだった。  それなのに何故、天使族は勝手に神の力を使用したのか、神 アケディアスは少し前からのワールドログを見返す。そして使用した理由を理解した。わからなくはない……それほどまでに知識人族は世界を支配し、天使族までにも手を伸ばそうとしていたのだ。それでも、神である自身の許可を得ず勝手に使用した……少しの違和感を残しつつも、楽観的なアケディアスは、代行システムが上手く働いていると思い、また眠りつく。だが、眠りにつく直前、ある神からタイミング良くプレゼントをもらった。アケディアスは眠さもあり、深く考えずそれをそのままエルドラードに放り込み、再び眠ってしまった。  一方、知識族人の住む地域を中心に起きた《カタストロフィー》の前に、知識人族の文明は跡形もなく崩れ、なおかつ身体能力が他の種族に比べ、圧倒的に低かった知識人族は、環境の変化に適応できず、全盛期の10分の1にまで人口が減ってしまい、それまで築き上げた世界最高の文明はことごとく崩れ去っていった。  そして、逆にそのほとんどが被害に遭わなかった他人種達はそれまでの虐げられていた知識人族から解放され、立場が逆転し、今までの我慢が爆発したかのように、今度はその他人種が残された知識人族に対し、差別と迫害を行うようになっていったのだ。
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