エピソード0 〜待っていた者と導かれた者〜

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エピソード0 〜待っていた者と導かれた者〜

 尊き創世の神々が住む世界(ユグドラシル)そのユグドラシルに住む神々は、それぞれが一柱、又は複数の神が、世界を創世し、その世界の管理を使命としていた。  そして、その創世する世界には、いくつかの約束事がある。  一、創造された世界の決まり。  神によって創造された世界は、その創造する神の裁量によって決まり、特別な理由や一定の条件がない限りは、最も神格の高い全能神であっても、他の神が創った世界を直接干渉することは出来ない。  二、魂の権限。  魂とは生命に宿る命のことだが、植物や虫や魚など小動物から魔物と呼ばれる感情や思考を持たない存在ではなく、感情や記憶、思考や意志を持って動く事の出来る存在の命こと。その代表が人と呼ばれる生物であり、その魂は神が創るまでは色々出来ても、生命体として世界に誕生してしまったら、思考や心を自由にコントロールすることが出来ない。  創世の神達が住む世界 《ユグドラシル》。神達以外の存在は決していてはいけない世界に、一つだけ特別な存在がいた。元は地球という世界で生きていた魂であり、あることによって、別の世界に転生した存在。本来ならば転生は同じ世界でしかあり得なく、また前世の記憶はリセットされるはずが、その人間は運命の悪戯なのか、あるもう一人の魂と一緒に記憶を持ったまま違う世界に転生してしまった。  その魂の持ち主の名前は、《ヴァンジャンス》。前世も転生した異世界も絶望の環境に生まれ、世界に復讐を誓った人間。だが、彼はある自分と出逢ったことで、世界に復讐するどころか世界を救う存在となった。ただその世界を救うため彼は、自分の魂を犠牲にしてしまった。  ただその彼の犠牲のおかげで、その世界に平和が戻った。本来ならば、その時点でまた、今度は転生先の世界で記憶をリセットされ、新たに輪廻転生されるはずが、その世界での戦いの中で神に等しい魂になってしまい、《転生》を司る神と神の頂点である全能神により、この神の世界 《ユグドラシル》に導かれてきたのだ。そして、彼 ヴァンジャンスは、ある人物をその世界で待っていた。  ヴァンジャンスは、その人物が来る何十年もの間、縁があった神々に頼み込み、修行を行っていた。そして、その修行の相手も最後の一神になってからしばらく経っていた。そして、その修行の途中、今の師となっている神獣フェニックスがヴァンジャンスに話しかける。 「……ヴァンジャンスさん、そろそろあのお方もこちらへいらっしゃる頃ですよ」 「……そうか。長かったな、アイツのことだろうから大往生だっただろうな」 「えぇ。そして、願いはあなたの全く一緒でした。本当に仲の良いお二人ですね」 「……からかうな。ただ……アイツは誰にでもそういう奴だ。アイツにとってオレは特別じゃなく、オレにとってアイツが特別なだけだ」 「そうじゃないと思いますがね……あっ、全能神様の所へ導かれたようです。皆さんも会いに行くみたいですよ、ヴァンジャンスさんも行きましょう」 「皆さん?あぁ師匠達か。いいや、フェニックスじゃなくて……マリアモンテ。あんたは先に言ってくれ、オレは賑やかなところは苦手だ。……後から呼んでくれ」 「……そうですか。では、またその時にお呼びしますね」  ヴァンジャンスは、マリアモンテを見送った後、再び修行を始めるーー ーー その男は大往生だった。大好きな家族に見送られ、幸せな日々を過ごした。その男は、特別だった。前世の記憶を持って地球という星から、その世界へと記憶を持ったまま、神に頼まれて転生したのだ。そして、最終的にはその世界を神を滅ぼし、世界を救った。  英雄となった、その人物の名は ヒイロ。前世は日下部という名の元保育士で独身アラフォーのおっさんだった。  彼は仲間達と共に、その世界を創世した神を消滅させ、その世界を救った。きっとその世界は、これからも小さな争いや不幸はあるかもしれないが、二度と世界中の生命が面白半分で絶滅したり、戦争などの悲惨な争いは起こらない世界となるだろう。  彼は寿命を迎える時、久しぶりにある存在に出逢う。 「久しぶりだね、日下部さん」  少年のような人物を見て、ヒイロは久しぶりに聞いた名前を思い出し、寿命と共に鈍くなっていた意識が、いきなり鮮明となった。 「……あ、あぁ久しぶりですね。シュタイさん、それとフェニックス……マリアモンテだったか?」  ヒイロは少年の隣にいる美しい女性にも同じように声をかける。 「お久しぶりです。どうでしたか、二度目の人生は幸せでしたか?」 「あぁ、おかげ様で前世よりも幸せだった。日下部だった頃の記憶もほとんど覚えていないくらい、今の人生は幸せだった。まぁ……ただの一つも心残りがないと言えば嘘になるが……」  転生を司る神 マリアモンテは、微笑みながらヒイロにある質問をする」 「あなたはこの世界を救ってくれました。間違いを犯していた神を、私達の代わりに裁いてくれました。そのお礼に貴方の願いを一つ叶えたいと思います。何かありますか?」 「世界を救ったのは神様達のためじゃなく、この世界に住む仲間や家族、そして世界中の子ども達のためで、オレ自身が救いたかったから、お礼はいらないですよ。それにその力を貸してくれたのは神様達、神獣ですし。……だけど、出来るならでいいけど、一つだけ願っていたことがあるんだ」 「確かに私達は貴方に力を貸しました。でも、貴方自身の力や仲間達は貴方の努力や人柄によるものですよ。きっと貴方でなければ、あの世界は救えませんでしたから」 「そうだよ、日下部さん。貴方だからボク達は信じて託したんだ。それにきっとあの人だって貴方だったから、自分の魂を犠牲にしてまで世界を甦らせてくれたんですから」 「本当は……この世界が今あるのは、オレじゃなくて……アイツのおかげなんだ。本当はオレが幸せになるんじゃなくてアイツが辛かった分、幸せになったって良かったんだ……なぁ、シュタイさん、オレの願い事はただ一つ。今度転生する時はアイツと一緒に転生したいんだ。アイツ、不器用でバカだから一人じゃどうしても不幸せな方に向かってしまう。アイツのおかげでオレの人生が幸せになったように、今度はオレがアイツの人生を、今まで不幸せだった2回分を跳ね返すぐらいの幸せな人生にしてやりたいんだ」 「……ウフフ、理由は多少違えど、気持ちは一緒なのですね。それではとりあえず、貴方の魂はもはや私たちと同等と言えるレベルです。なので、一度私達の住む世界に来てください」 「宜しく頼みます」  こうしてヒイロは神の世界へと導かれていった。
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