この感情の名は……

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 わたしは怒ってる。  なぜかって?  せっかくの休日なのに、彼ったら本を読んでばかりで……  隣にいるわたしのことは、きっと空気だと思ってるんだわ。  その証拠に、ソファに体を預けてとてもリラックスしてるように見えるもの。  口元には、微かな笑みさえ浮かべている。  そりゃあ、心待ちにしてた新作だってことは知ってるわよ?  楽しみがあるのは、とてもいいことよね。  わたしにだってあるもの。  邪魔をしちゃいけないってこともわかってる。  だから、「僕のことを良くわかってるね」と褒めてほしくて、静かに寄り添ってみたけれど。  本当は、寂しくてたまらない。  いつものように、頭を撫でてほしい……  「……なに?」  たまらず、体をすり寄せると彼は本から目を離さずにつぶやいた。  もうっ……こっちを見てよ!  「どうしたの?」  強引に腕をつかんだら、ようやく視線を私に向けてくれた。  「そんな目で見ないでよ」     言葉とは裏腹に、なんだか嬉しそうな微笑みを浮かべる彼。  「おいで」  本を脇においた彼が、両手を広げる。  わたしは迷わず、その胸に飛び込んだ。  「もしかして、寂しかった?」  頬を撫でる手のひらの感触が心地よくて、素直に甘える。    「あったかいな。眠くなってきちゃったよ。一緒に寝ようか」  えっ……ひゃあっ!    ごろんとソファに寝転がった彼は、覆いかぶさるわたしをじっと見つめた。  あなたって、なかなかの気まぐれ屋さんよね?  「まだ怒ってるの?」  その言葉に顔を背けると、クスクスと笑われた。  「ごめんね?」  丁寧に頭を撫でられて、わたしはそろそろと視線を戻した。  「可愛い」  なによ……今さらデレデレしちゃって。  「ははっ。気持ちいいのか?」  背中をさすられて、思わずうっとりと目をつむってしまった。  ちょっ、調子に乗らないでよね?  「あー……幸せだなあ」   大きなあくびをひとつして、彼はわたしを優しく抱きしめた。  ……わたしも幸せよ。  本当は最初から怒ってるフリをしてただけだし。  あなたの気を引くために。  「僕といて、幸せ?」  あらたまった質問に、彼の目を見返す。    「幸せだといいな」  無償の愛を与えてくれるあなたは、答えを期待してるようには見えない。    伝わるかは、わからないけれど。  怒ってないことくらいは、察してもらえるかしら?  「ニャア」  「あはは! わかった、わかったよ! 僕も大好きだよ」  綺麗な肌に頬ずりすると、あなたはわたしの心を読んだかのように優しく目を細めた。
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