第一章③ side;カド

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第一章③ side;カド

 手を繋いで帰ってから三日間、ハルは学校に来なかった。  俺は自室のベッドの上で、スマホをもう何時間も握りしめている。表示されている今日の日付は土曜日で、ハルと会えないまま、学校の無い日曜日に入ろうとしていた。  数時間前まで学校にいた俺は、『見舞いに行ってもいいか』と、ハルにメッセージを送った。  何時間か経ってからの返信には、やんわりと拒否の言葉が並べられていて、教室にいた俺は項垂れた。  帰宅した俺は、また何かメッセージを送ろうと試みた。  けれど、書いては消しての繰り返し。下書きばかりが溜まっていく。  自室のベッドに寝転がりながら、首が痛くなっていく。  せっかく、ハルが俺の前で泣いてくれたのに。結局、俺はかける言葉が見つからないのだ。 『ごめん。嫌だったよな。忘れようぜ』  何度もそう送ろうとして、同じ文面がデータとして溜まっていく。でもこの言葉を送りたくなくて、俺はスマホと一人相撲を繰り返す。嫌だったと言われたら、もう立ち直れない。忘れるなんてどうせできやしないのに。何度も真っ赤な嘘に染める。 『早く風邪治せよ。待ってる』  無難な言葉も打った。あの日を少しも感じさせないような、友達の文章。  でも、これは逃げだ。俺はせっかく踏み出した一歩を無かったことにするのだけは嫌だった。もう友達には戻れそうにない。 『また肉まん半分こしような』  俺は自分の馬鹿さに打ちのめされる。これで泣いたのに思い出させてどうする。 『好きだ』  最後にたどりつくのはずっとこの一言だ。俺は愚かだ。  好きだと言えたら、こんなにも言葉を探さない。  ハルの少し小さめの掌。怯えるみたいに微かに震えていた。ひんやりとしていて、俺の熱を移した。俺の手はしっかりと柔らかさを覚えている。 『泣いてる顔も可愛かった』  これは独り言だから。誰にも言わない。  可愛いと言えずに、美人だと誤魔化した。  長い睫毛を伏せて、琥珀から溢れ出していた雫。俺には、流れ星よりも綺麗に見えた。オーロラの中でも見つからないと思った。  あんなにも、触らないと誓ったのに。たまらなくなって抱き寄せた。 「はあ」  かき乱したシーツの上、ため息にすべてを逃す。どうしたらいい。ハルのことも。俺の進路も。何もかも。
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