第一章④ side;ハル

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第一章④ side;ハル

 僕が重い腰を上げて、やっと学校に行けたのは週明けの月曜日だった。  どんな顔で、どんな言葉を装着すればいいのか。何一つ分からなくて、休みの間、僕は自分のベッドに潜って視界をシャットダウンしていた。  時折スマホが震えて、現実世界の音を聞かされていた。色々な人が体調を気遣うメッセージをくれた。  カドからのメッセージだけなかなか開くことができなかった。見舞いに行くと書かれた文字を見た時、もうこれまでの僕たちじゃいられないことがわかった。  どんな僕の言葉も白々しくなってしまって、結局、テンプレートみたいな返信になってしまった。釣られて僕まで嘘をつくのが下手になったのだろうか。  泣き顔を晒せば、馬鹿みたいに笑うのが難しい。  カドが同じクラスでないことが唯一の救いだ。 「おはよう。ハル。大丈夫かよ」  めまいを抑えて教室に入れば、石本が尋ねてくる。石本には全て見透かされている気がして、こころが重い。 「おはよう。心配かけてごめん。もう大丈夫だから」  僕は今までみんなに見せてきた表情を貼り付けて答える。たぶん、これでいいんだ。 「それならいいけど。なんか、まだ顔色悪いんじゃないか」  石本は疑って僕を見てくる。みんなの異変にいち早く気づくのはいつだって石本だ。さすが、サッカー部の頭脳と言われている男だ。誰よりも聡い。  「心配しすぎだって。平気だよ」  僕は瞼を伏せてわかりやすく笑う。 「お。おっはよー。ハル、もう大丈夫なの」  今度はカンナちゃんが登校してきて、一目散に僕と石本のところにくる。 「おはよう。うん。大丈夫だよ」  僕はもう一度同じように笑う。  よかった。騒がしい、いつも通りの朝だ。僕とカドが歪を身につけても、周りまで変形したりしない。少なくとも、今朝はまだ大丈夫。 「悪いんだけどさ、休んでたところのノート写させてくれない」  そう言ったときだった。突然視界がグニャリと曲がり、立っているのが難しくなった。 「おい。ハル」  どこかで石本が焦って、僕を呼ぶ声が聞こえる。ついに、世界までもが歪んでしまったか。そんなことを考えていたら、僕の記憶はブラックアウトした。  
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