第一章 ① side;カド

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 いつかオーロラを見たい。  小学校低学年の時、テレビで初めてオーロラの映像を見た。  東京の真ん中で生まれ育った俺、門田燎司(かどた りょうじ)は、澄み切った夜空が地球のどこかに存在することをその時はじめて知った。  天をも越えてどこまでも存在する紺碧の空。濁りを恐れもせず、碧を贅沢に広げ、色々をグラデーションで帯状に浮かべている。  青、赤、緑。図工で使っていた絵の具セットのラベルを口に出す。  そのうちに、名前をつけられない色を見つけた。緑と黄色の混ざり合ったような調和した色。赤と橙が遊び合ったような楽しげな色。自分の絵の具セットには入っていない遠い色。 「お兄ちゃん、あのオーロラの中に入った、ぼくの知らないきれいな色の絵の具は、高学年になったら増えるの?」  俺は隣にいた、もう高校生だった兄に聞いた。  兄は何度か瞬きをした後、柔らかく笑って 「そうだなあ。高学年には叶わないかもな。でも、燎司が本当手に入れたいと思えば、きっと増えるよ。いつかね」と言ってくれた。    
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