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メアリの兄は、国王にとって、遅くに生まれた王子である。
待望の世継ぎに民は喜んだが、その影には泣いた者もいた。王弟を次代の王に推していた派閥がそれである。
件の伯爵家は、隠れ王弟派であった。王太子を亡き者とするため、娘を送り込んだのだという。
娘が所持していたナイフには即効性の毒が塗られており、ほんのわずかでも肌に傷をつけると、そこから毒が浸透し、命を奪う強力なものであった。
そのまま順調に関係が進めば、むしろ王妃の父という後ろ盾を得たであろう伯爵の真意はなんだったのか。
それはこれから明らかとなるだろう。
婚約が破棄された翌日は、いつもと変わらず、穏やかな日和であった。
風の吹く庭で、兄とふたりで過ごす至福の時間である。
「これもすべて、メアリのおかげだ。おまえは命の恩人だよ、ありがとう」
ご褒美にと、料理長より供されたビスケットを食べながら、メアリは大好きな兄に答えた。
「ワン!」
ふさふさのしっぽを揺らしながら、王太子の妹分である愛犬メアリは、今日も元気に庭を走っている。
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