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あの頃、僕は担任の先生が死ぬほど嫌いだった。だから大予言ということで先生の死を予言した。あわよくば死んでくれればいいと思って。でも僕には未来を予言する力なんて本当は無かったから、あの予言は外れるはずだった。予言というよりは単なる僕の希望。
しかしあの日、本当にたまたま先生と帰り道に出会って、たまたま先生があの道で僕の腕をつかんだ。そしてそれが気に入らない僕はただ先生の手を振り払っただけ。道に倒そうなんて思ってもみなかったし、そこにトラックが通りかかるだなんて想像すらしていなかった。
そして、先生は死んでしまった。
「あれは事故だったんです。予言なんて関係ありません」
「何を言ってるんです?アナタが予言したからこそ、先生は死んでしまったんですよ。アナタが死を予言しなければ、先生はまだこの世にいたはずなんです」
ダメだ。言いたくはないけど本当のことを言おう。
「違うんです。僕の予言は大人たちの話を聞いてそれを未来に起こることだとそれっぽく触れ回っていただけなんです。先生のことは本当にたまたまなんです。あの予言をしたのだって、僕があの時の先生が大嫌いでいなくなってしまえばいいと思っていたからつい言ってしまっただけのことで」
一生懸命説明してみても男は首を横に振り「いいえ、アナタのチカラは本物です」と言い続けるだけで決して認めようとはしなかった。
そんな男を見ていて、ふと僕はどうしてこの車に乗せられているのだろう?と疑問に思いはじめた。僕の予言のチカラが本物だと思い込んでいるこの頭のちょっとおかしい昔のクラスメイトだと言い張る謎の男。この男の目的は?
僕は男に直接聞いてみることにした。
「あのちょっといいですか」
「はい、何でしょう?」
「僕を探し、車に乗せてあなたは僕をどこに連れて行く気なんですか?」
すると男は不思議そうな顔をして首をかしげる。
「まだ全部思い出したわけじゃないんですね……」
「全部思い出す……?」
男はこくりと頷くと、僕が持ったままノートのページを順番にめくり始める。
「ここで地震がありました……」
「ここで台風がありました……」
ノートに書かれている子供の文字の横に、大人の文字で日付が振られている。これは僕の適当に言った予言が当たった日をこの男が後で書き加えたものなのだろう。もちろん予言は適当なものなので、日付が振られていない予言の数の方が多い。それでもこの男には関係が無いようだった。
「そしてここです」
そう言って指さしたページにはこう書かれていた。
”でんぱをつかってぼくをさがしだせば世界はすくわれるだろう”
「なんなんですかこれは……」
怪訝そうに言う僕に男は嬉しそうに答える。
「だからアナタの大予言ですよ。世界を救うために、僕はアナタを探し出すことにしたんです。アナタの予言に従って電波を使って呼び掛けたら本当にアナタを見つけ出すことが出来ました。これで世界は安泰です。アナタが世界を救ってくれるんですから!」
「いや、世界を救うだなんて、そんな大層なこと僕にはできませんよ」
「何を言ってるんですか!こうやって、今日まさにこの日の事もアナタの予言通りじゃないですか!」
興奮を隠せない男から僕は体を引いた。
「そんなことを言われても、僕にはどうすることもできませんよ」
「大丈夫です。これからすべきこともこの大予言に書かれていますから」
狂気に満ちた目を輝かせながら、男は僕の手からノートをひったくり、そして僕の顔の前に、あるページを突き付けてきた。
”ほのおの中にそのみをしずめたあと、ぼくはよみがえる。そして世界にへいわをもたらすためにたびだつのだ”
そしてその文字の下にはドラム缶に入って炎を吹き上げている人間の絵が描いてある。この絵は確か、僕が自分のノートに書いた落書きだ。こんなところに書いた覚えはない。ではなぜ?
体中から嫌な汗が吹き出す。この男は正気じゃない。
「大丈夫です。もう準備は出来ていますから。アナタはこの予言通り蘇って世界を救う旅に出るんですから安心してください」
その時、太ももにチクリとした痛みが走り、僕の体からチカラが抜けた。体は全く動かないが意識ははっきりしている。どうして僕がこんな目に。それに今、世界はこんなに平和で救う必要なんてないはずだ。
どれくらいの時間、車に揺られていたのだろう。
車が止まりドアが開いた先に見えた場所は、山奥にある廃村のような場所だった。
「さあ、つきましたよ」
焦点のあっていないような目をした男は、僕をニヤニヤした顔で見ながらそう言うと、僕の身体を車から引きずり出した。
男に引きずられながら、崩れかけた家に挟まれた砂利道を通り抜ける。この場所はどこだろう。見たことが無い場所だ。そう思っていると、大きなドラム缶がひとつ置かれた広場にたどり着いた。
まさか。あのドラム缶は
”やめろ!やめてくれ!”
僕は必死に暴れ、一生懸命叫んでみたけれど、身体はまだピクリとも動かないし声だって出てこない。そんな何もできない僕を持ち上げ、男は讃美歌のようなものを歌いながらドラム缶に僕を足から詰め込んでいく。
”あんな予言はインチキだ!子供のたわごとだ!本当はわかってるんだろ?助けてくれ!僕には何もできないんだ!ただの一般人なんだよ!”
心の中でそう叫び続ける僕にはお構いなしに、ドラム缶に収まった僕を見ながら男は満面の笑みを浮かべ、火をつけたたいまつを片手で空に掲げた。
「さあ、予言通り生まれ変わってこの腐り切った世界を救ってください!お願いします!」
そう叫ぶと男はたいまつをドラム缶の中に放り込んだ。
<終>
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