キミがそう決めたんです

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 僕はなぜだか逃げ出すことが出来ず、あの男に言われるがまま操られているかのようにその車に乗り込んだ。 「山田朔耶くん、電話してくれて本当にありがとうございます。僕のことを覚えていますか?って、その顔だと何も覚えていないみたいですね」  僕の顔を覗き込む男の顔を見ても僕は何も思い出せない。 「では、光小学校4年2組のことは覚えていますか?」  光小学校とは、僕が通っていた小学校で、4年2組は僕が在席していたクラスだ。 「ええ。それは覚えています」 「では、このノートに書かれていることに見覚えは?」  そう言いながら男が僕に差し出したのは小学校のころに皆よく使っていた自由帳で、その表紙には子供が書いたであろう高層ビルの絵がマジックで書かれている。 「いや、それは知りません」  表紙を見るだけでノートを受け取らない僕を見ると男はノートを僕に押し付けるようにしながら続ける。 「大切なのは表紙では無く中身です。さあ、よく見て下さい」  有無を言わせない圧を感じた僕は、男からノートを受け取るとパラパラと中を確認しはじめた。 ”大よげん” ”夏休みのプールはちゅうし” ”うんどうかいではおしくも2い” ”みきちゃんがてんこうしていく” ”先生がくるまにはねられる” 「これは……」  ノートに目を落としたまま思わず僕は呟いた。 「思い出してくれましたか?」  小学4年生が書いたにしては幼い文字。僕が驚いたのはその文字そのものではなく、このノートに書かれている”大よげん”の内容である。ここに書かれていることは、全て現実に起こった事。  4年の時、夏休みのプールは工事で中止になり、運動会では2組は2位だった。二学期の最期でみきちゃんは転校していき、3学期の初めに先生は車にはねられて亡くなってしまっている。 「これは一体?」  僕は顔を上げると向かい側に座っている男の顔を見る。 「まだ思い出せませんか?」 「思い出すも何も、これは全部実際に起こった事件を書き残したものですよね?これがどうかしたんですか?」  そう言った僕の顔を男は残念そうな顔で見ながらふるふると何度か横に頭を振った。 「一番上を見てください。『大よげん』と書いてありますよね?」  僕は言われたことを確認するためにまたノートに目をおとす。 「ええ。書いてありますけど……。でもその後のことは事実……」 「それが書かれたときには、まだその『事実』というものは起こっていなかったのですよ。だから『大よげん』なのです」  何を言ってるんだこの男は。ばかばかしい。そう口にしようとした瞬間、男がこう言った。 「そしてその『大よげん』をした人物。それはアナタです。山田朔耶くん」  その言葉を聞いた瞬間、僕は封印していた僕の黒歴史を思い出した。  僕は小学校4年生の頃『僕は予言者だ!』と触れ回っていた。自分は普通ではない特別優れた人間であるはずだと心の底から信じていたし、周りの人間とは一線を画しているものだと思っていた。そして、そんな特別な僕にふさわしい特別なチカラこそが『大予言』。  僕は大人が話していた内容を予言だと称してしたり顔でクラスで触れ回った。運動会のことは適当に言ってみたらたまたま当たってしまっただけだけど。先生のことは……何だろう、思い出すことが出来ない。あの時の担任と僕はとても相性が悪かったことだけは覚えている。あ、これはなんだろう。放課後先生と歩いているぼ……く?通学路の交差点。この道はトラックがとても多くて……。 「山田朔耶くん、僕はアナタのクラスメイトでした」  男がふいに口を開いた。 「え?」 「覚えていないのも無理はないかもしれませんね。クラスで中心的人物だったアナタですから。僕の目に映るアナタはいつも輝いていました。僕は教室の隅っこでいつもそんなアナタを目で追うことしかできませんでした」  クラスメイト……。こんな男、いただろうか……。 「僕はアナタの大予言が次々と的中していくのを見て、アナタの能力(チカラ)は本物だと確信しました。だから、アナタの大予言を全てノートに記録していたのです」  目を輝かせている男に対して、とても言いにくいことだけど、僕は真実を伝えることにした。 「でもあれはほとんどが嘘だったんですよ。あの頃少し僕は変だったんです。特別な能力に憧れる時期ってあるじゃないですか。アレがちょっとひどかっただけなんです」  しかし、そんな僕にかまうことなく男は続ける。 「何を言ってるんですか!先生の死を予言したアナタの力は本物以外何者でもないのです。卒業してからの予言もたくさん当たっていますし」  先生の死という言葉でまた頭の中に何かが思い浮かんでくる。  先生の手を振り払う僕と、それでよろけて道の真ん中に倒れた先生。そしてクラクションの音……
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