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第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(十三)
「ん……?
あぁ、まぁ、助けたと言うか、ガキのくせに面白そうだったんで略取してきただけだ」
「合意の上、正しくは同行」
「街を歩いてたら、こいつがトカゲとかフナとかの手作りの剥製を売り歩いていたんだよ。
その出来も良かったし、それに加えて『今は緊急事態だから、どうしても欲しいなら、やむを得ないが俺の作った秘蔵の昆虫解剖標本集も売ってやる』って言うんで、こんなガキにしてはなかなか見所がありそうだったから、そんな二束三文にもならん路上販売などやってないで、うちで何かに使った方がいいと思ってな」
「ここは、楽しい」
中年の視線に二人が答えると、
「あの心から大事にしていた標本集を手放すだと……!
そうか……そこまで追い詰めてしまっていたのか……!
……すまない……真奈……。
すまない……香里奈……こんなチャラい異邦者の毒牙に脅かされるようなことをさせてしまって……!」
中年は娘二人に向かって順に頭を下げ、声を震わせた。
「なんか……子供なりに必死に家計を支えようと頑張る健気な娘さんたちと、そこへ戻って来て自分の不甲斐なさを詫びる親父っていう、まぁまぁ感動的ないい話のはずなんですけど……なんですかね、いまいち感動し切れない、釈然としない点が多過ぎる気がするのは……。
だいたい真奈ちゃんって今五歳なんだよね?
それにしてはちょっと趣味が高じ過ぎてるというか、知識も技術も長け過ぎているというか……」
やっと一通り落ち着いたかと大きなため息をつきながらも、トールが真奈に顔を向けると、
「人を年齢で判断するな。
五歳の天才もいれば四十二歳の厄年のクズもいる」
そう五歳の娘が無慈悲に言い放った言葉に、
「……本当に申し訳ございませんでした……」
当の厄年の中年はがっくりと膝を落とした。
「酷い言われようだけど、皆目、口を挟む余地が一つも無いな……。
っていうかやっぱりあんたカッパだなんて嘘だったんじゃないか。
そもそもあんたの中でカッパってどういう設定になってんだよ。
どこからどこまでがカッパのつもりだったんだ?
半女性的な所作の数々はカッパの設定なのかあんたの本性なのかどっちだ?
ま、何にしろ、娘さんたちに例の『ウロコ』を見られなくて良かったな」
やっとマウントを取れ顔をほころばせながら、元自称カッパの中年に歩み寄ったトールが、娘二人の方をチラ見しながら勝ち誇ったように小声でささやく。が、
「……その件なら既にだいぶ前から二人の知るところとなっている。
和解もした。
何なら真奈は生まれた時から見慣れているから父親とはそういうものだと解釈している」
中年はひざをついたままに、しかし和解に至るまでの紆余曲折を物語るような力強い眼差しでトールを見詰めて答えた。
「……わかりました、あなた方のことは家族心理学的観点から、特殊で重要なサンプルとして今後も観察させて頂きます」
表情を曇らせながらも、心理学者としての性分が湧き上がり一瞬目を輝かせたトールに、
「話は済んだか?
なんだか冷えてきたし、そんなしょうもないホームドラマなんかいつまでもやってないで熱いコーヒーでも入れてくれるか」
あくびをしながら建物の扉を開いたユサギが呼び掛けた。
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