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第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(十四)
書籍や機械部品などが雑然と詰め込まれた棚が、さらに雑然と室内を埋め尽くしている一階研究室の一番奥、キッチンスペースの小さなテーブルを囲み、一同は部屋中から集めた適当な椅子に腰掛けた。
トールが入れたエスプレッソが大人たちの前に置かれ、女子二人には紅茶が振る舞われる。
「恐縮です……。
それでは……申し遅れましたが、ワタクシは美島忠善と申します。
こちらは、既にお見知りおき頂いているようですが、改めまして、ワタクシの長女の香里奈、高校一年、次女の真奈、五歳です。
この度は大変御迷惑をおかけ致しまして、並びに娘たちが大変お世話になったようでして、誠に申し訳御座いません、厚く御礼申し上げます……」
「すみませんでした、ありがとうございます」
「サンキューな」
美島が立ち上がり深々と頭を下げると、香里奈もそれにならって横に並んで頭を下げ、真奈は紅茶のカップを口に運びながら二本の指を立てた片手を上げた。
「あぁ。
しかし……お前たちがカッパじゃなかったのは本当に非常に残念だったが……まぁちょうど役所の書類とかも溜まってて、督促状なんかも届いたりして色々面倒臭くなってたところだったし、そういう仕事ができるのは嘘では無いんだよな?」
「はい……それは本当に、某大手企業で二十年間事務職を勤めて参りまして、多少中間管理職的な立場にまでは出世致しておりましたので……」
頭を上げた美島が真剣な顔をユサギに向け、
「社長が海外から来た凄腕のに変わっちゃって、大規模なリストラがあったんです……」
「即クビ」
娘二人が補足の言葉を添える。
「よし、では決まりだ。
お前はこれからうちで事務及び雑用係として働いてもらう。
私が必要だと判断したらその都度各種の資格や技能も習得してもらう。
その費用はこちらから出そう」
「うわぁ!
良かったね、お父さん!
ユサギ先生、本当にありがとうございます!」
「再就職おつ」
「こ……このご恩は一生忘れません……粉骨砕身、全身全霊をかけて真摯に職務に当たらせて頂きますので……」
涙をにじませ再び頭を深々と下げた美島に、二人の娘が飛び跳ねたり肩を叩いたりしていると、
「では早速だが、とりあえず船舶免許とヘリコプター免許を取得して来い。
大型の重機系の免許も欲しいな。
いやぁ、あはは、これで面白実験の幅が広がるなぁ」
ユサギが楽しそうに顎に手を当てて想像を膨らませ始めた。
「ものすごく危険な予感がしているのは僕だけでしょうか……。
これでもう陸海空で自由自在にやりたい放題ですね……」
ユサギの命令に苦笑いを浮かべていたトールが、
「お父さん、どうせなら戦車とか発破技士の免許も取っておいでよ!」
「CITES(サイテス)輸出許可書もいるな。輸入承認証も」
などという娘二人の提案に、
「えぇと……真奈ちゃんのはなんとなく予測の範囲内なんだけど……香里奈ちゃんの方もまぁまぁ風変わりなご趣味をお持ちのようですね……」
さらに不安な様子でつぶやく。
「ほぅ、二人共なかなか悪くないな。
お前らも暇があったら私の実験を手伝えよ。
人数が多い方ができることの幅も広がるし、これはますます期待に胸が膨らむな……っと、そんなことを言うとこいつがすぐに私の『キャラに反して思ったよりあるんだなぁ』的な胸を見て性的に興奮するから、気を付けないと」
ユサギがトールに向かって悪い笑顔を浮かべながら、自分の胸を守るように両腕で覆ってみせた。
「うわ、やっぱりトールさんてそういう感じの……」
「発情期」
「いや、もう、何ですか、ちょいちょいそうやって僕のことを異常性欲者みたいな扱いしますけど、ずっと意味わかりませんからね?
そんなこと一度もしたことも無ければ言ったことも無いんですからね?
ったく……」
トールが女子二人の冷たい目線に大きなため息をついていると、美島が大股で歩み寄りトールに向かって指を指し、
「娘たちに手を出したら許さんからな、この変態が!」
「あんたには言われたくないですよ!
あんたの方が本物じゃないですか!」
トールはその手を強めに払い、舌打ち混じりにエスプレッソを飲み干した。
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