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第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(四)
「何って、餌だよ」
「それはわかってますよ。
その餌に何を用いているのかって聞いてるんです」
「気になるのか?」
「えぇ……まぁ……」
「そうか……吊り橋効果の実験と言い、やはりお前は私のことが気になって仕方無い、すきあらば私をどうにかしてやろうと画策している異常性欲者なのだな……っと!
それ以上近づくなよ、あっぶねぇ……!
こんな山奥じゃ助けを呼んでも誰も気付きやしないからな……と、あぁ、そうか、そういうことか。
そもそもの狙いはそこにあったのか、この鬼畜が。
これでも食らうといい」
トールに向けた竿先をぐるぐると揺らして動きを牽制しながら、ユサギが結局針に掛けられなかった餌をトールに投げ付けた。
「ちょっと!
何するんですか、危ないじゃないですか!
……って、何ですか? これ」
フェンシングの如く襲ってくる竿と飛んできた釣り餌をかわし、後ずさりながら、地面に転がった黒い団子のような物体にトールが目を向けると、
「ようかんだよ、大虎屋の。
釣具屋に行ったら餌として芋ようかんが売られていたのでな。
だったらどうせなら最高級品を使った方が釣れるんじゃないかと思ったんだが……しょせん魚類だな、この味がわからんと見える」
さも残念そうにユサギが首を振った。
「……先生、もう帰りましょう、そして残った釣り餌は僕がいただきましょう」
「まだ一匹も釣れて無いのに帰れるか。
それにこんなものを食ったらお前は死ぬぞ、独自に有機リン系の猛毒を練り込んであるからな」
「何やってんですか!?
そっちの方が外来種なんかよりよっぽど環境汚染ですよ!
なんで釣り餌に毒なんか使ってんですか!
だいたい高級ようかんでしょ!?
もったいないことしないでくださいよ!」
「えぇ?
だって別にニジマスを釣ったからって食うわけでは無く駆除するんだから、だったら最初から毒を食わせて釣り上げた方が一石二鳥というか、まだ元気にびちびち跳ね回ってる魚にニヤニヤしながら遠くから石を投げ付けて息の根を止めるなんていう、前時代的な嗜虐行為に身をやつす必要も無くなるわけだし」
「駆除を何だと思ってんですか!
別にニヤニヤする必要も投石する必要もありませんよ。
そんなことやってる環境保護があったらむしろそっちの方が問題です。
わかりました、やっぱりもう帰りましょう、ユサギ先生に釣りや外来生物駆除のセンスは皆無です」
不思議そうに目を丸くしながら首を傾げているユサギに、大きなため息をつきながらトールは竿をたたみ荷物をまとめ始めた。
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