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第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(五)
「失敬なやつだな。勝手に仕切ってんじゃない。
……まぁいい、確かに早くも飽きてきた所だし、ならあっちに釣りとは別に、毒も餌も使わない楽々便利な仕掛けカゴも設置してあるから、それも回収してきてくれるか」
「いつの間にそんなもの用意してたんですか?
ったく……自分で置いたなら自分で回収して下さいよ……。
で?
どこです?」
再びのため息と共にトールが辺りを見回すと、
「ちょっと上流の方だ。
ほら、あの、ちょうど私がトイレとして使っていた大きな岩陰の……」
「釣りしてる上流にトイレ設定してんじゃないですよ!!
馬鹿なんですか!?」
「うそうそ、まだしてないって、ほんとほんと」
「……とにかくあそこら辺なんですね?」
とぼけた顔で吹けもしない口笛を吹くような古臭い誤魔化し方をし始めたユサギに、不快感を顕にしながらもトールは示された大きな岩の方へと渋々歩んで行った。
川幅は数メートル、澄み切っているとは言えそこそこ深いらしく、水流の勢いもあって底は見えない。
目的の大岩は半分が水際に浸かるような形で狭い河原に立ちふさがっており、その周辺に散点する石や流木で足元も悪い中を、なんとか辿り着き裏手に回ったトールは、大きな流木に結び付けられ川底へと真っ直ぐに張られているロープに目を留める。
「これのことかな。
ったく、外来種の駆除とか言いながらこんな子供の川遊びみたいなもんまで仕掛けて……って……何これ、ものすごい重いんですけど……。
水流のせいかな……それとも根がかり……?
くそ、重い……」
ユサギの口ぶりからは、せいぜいウナギ獲りのカゴのようなものを想像していたため、片手で軽くロープを引いたものの、全くびくともせず、意を決するように流木に足をかけて踏ん張り、両手で必死に引っ張り始めると、わずかずつではあるがロープが手元にたぐられてきた。
「ちょっと、先生!?
どんだけの仕掛けを放り込んだんですか!
重過ぎるんですけど!」
「あぁ、すまん。
意外な大物が潜んでいたらどうしようかと期待に心踊らせてしまってな。
ついイノシシでも捕獲可能な大型の檻を購入してしまったんだ。
ほら、頑張れっ、頑張れっ」
トールの後を追って岩陰から顔を出したユサギが煽る。
「頑張れじゃないですよ、手伝う気も無いんですか……っと、あぁ、なんか見えてきましたね」
背後で棒読みの頑張れを繰り返すユサギにため息をつきながらも、なんとか引き上げ続けるロープの先に、川底を引きずるように金属製の大きな檻が近付いてくるのが確認され、
「あれ、もしかして何か入ってます?」
「ほぅ、ニジマスかな」
「本気で言ってますか」
「いや、全然」
などといよいよ水面から顔を出したその檻に目を凝らした、が、
「……あの……先生……」
「……どうする? トール君」
檻の中に収まっている、何らかの生物、というか、本来ならば川底などに棲息しているはずも無い、陸上を二足歩行で闊歩し言語や道具を用いて文明の中で生活しているべきよく見知った脊椎動物に、二人は瞬時に脳内であらゆる可能性を巡らせ、眉間にしわを寄せた。
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