第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(六)

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第一話:吊り橋とカッパの親子と地下室のサクラ(六)

「こ……これは……先生……どっちだと思います……?」 檻の中で、意識を失っているのか、目を閉じ体を丸めて横たわっている、全裸に上下おそろいの女性用の黒い下着のみを身に付けた、小太りで頭頂部の髪がすっかり脱落している脂っこい中年男性を注視しながら、恐る恐る尋ねるトールに、 「人間かニジマスか、と言う話だろう?  ならばこれは恐らくニジマスだ、駆除したいがさすがに大き過ぎて気持ちが悪い、リリースしよう」 ユサギが真剣な表情で振り返り大きく頷いた。 「何言ってんですか!  事件なのか事故なのかって聞いてんですよ!  どう見てもニジマスなわけ無いでしょうが!」 「いや、わからんぞ、こういう種類のニジマスもいるかも知れないじゃないか」 「はぁ!?  とんだ新種発見ですね!  進化論の崩壊ですよ!  こんなもん人面魚どころか『ほぼ人間魚』じゃないですか!  っていうかどうしても魚類だって言い張るならエラはどこですか!?  首元ですか、顔面に付いている人間で言う鼻にそっくりなあれですか、それともあのブラジャーの下に隠されてるとか言うつもりですか!」 「うるさいなぁ、そんなことはもうどうでもいいじゃないか。 こんなもの、もうニジマスでいいだろう、ニジマスってことにしておけよ、面倒臭いから」 「あぁ、あぁ、なるほど、そういうやつですか、見て見ぬ振りで行くパターンですか!  見損ないましたよ!  不審な死体を発見しておきながら、見なかったことにして何事も無かったように帰ろうっていうんですね!?  もはや科学者以前に人としての方向性を誤ってますよ、そんな方だったんですか!?」 「だってさぁ!  こんなのは別に科学的探求じゃないやつじゃんか!  科学者じゃなく地方公務員がどうこうする話だろう!  いったん置いといて、家に帰ってゆっくりコーヒーでも飲んで一休みしてから、改めて匿名で通報すればいいだろ!?」 「駄目ですよ!  だいたいこの檻はどうするんですか!  下手すれば先生が犯人にされて……」 「あの……お騒がせしてしまってるようで……すみませんなのですが……」 「あぁ!?  部外者が口を挟んでくるな!  今忙しいんだ!  ……って……」 「え? あれ?  何? 誰?  これ? もしかしてそれ?」 「はぁ……すみません……ワタクシです……」 いつの間に起き上がったのか、檻の中で女性用下着姿の中年男性が、半分水に浸かりながらも正座をして二人の方を申し訳なさげに上目遣いでうかがっていた。
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