1. 紋様はさいなむ -4-

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 北陸の南西部にある山間(やまあい)の町にその屋敷はあった。  時代劇にでも出てきそうなその屋敷は、その大きさもさることながら、庭園の美しさでも町の評判をとっていた。  その美しい庭園を見渡せる座敷で、一人の老人が一枚の写真をじっと見つめている。  美しい正座の姿勢を少しも崩さず、小一時間はその写真を眺めながら、何かを思案しているようであった。  やがて、老人は見ていた写真を畳の上に放り出し、傍らに置いてあった便箋を取り上げた。  面長の顔に刻まれた皺(しわ)を更に険しくして、じっと便箋を見つめた。  三十分もそうしていたろうか、おもむろに老人が手を叩いた。  それに答えるように横の(ふすま)が開き、一人の少女が現れた。  漆のような黒髪を後ろで束ね、切れ長の目と細面(ほそおもて)の美少女である。  首から下げている紫水晶のペンダントが印象的であった。 「お呼びでしょうか?」  涼やかな声だ。 「麻里江、これを見てみなさい?」  老人は麻里江と呼んだ少女の前に先ほど見ていた便箋と写真を差し出した。  取り上げた便箋に麻里江はさっと目を通した。
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