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今に始まった事ではないが、教授は大凡ストレートな物言いをしない。だからまるで、目的地にたどり着くまでの近道を全て教わったうえで、最遠距離のルートを歩かされている気分となる。今回も例に倣うといったところだろうか。
「お話……それは、いったいなんなんです?」
私はソーサーの縁に置かれた一寸ほどのチョコに手を伸ばし、苦みとコクに満たされた口に一時の夢を与えた。
いつもと変わらぬ味だ。シックな包装紙という見た目に反して酷く甘過ぎる。でも嫌いじゃない。
すると彼は、テーブルの端にあった砂時計をひっくり返しながら徐に口を開いた。
「僕は今まで見て見ぬふりをしてきました。それは、自分のためではありません。
ですが……見方によっては自分のため、であったのかもしれませんね」
「……真実に迫るにはその過程が重要。また謎解きですか?」
「いえ、これに関して謎はほぼ無いでしょう。答えは既に出ているのでしょうからね」
「また冗談を。出ているのなら私がここに来る必要はありません。
つまり医学や哲学、物理学に心理学など様々な分野に精通したあなたに会いに来ているのは、専らそういう意味です」
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