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Ⅰ.男は見た目に弱く、騙され易い
「わたし、瀬那君の事が、好きなんです…!」
なけなしの勇気を振り絞り、発した言葉は震えていた。
丁寧にブローした髪の間から、真っ赤に染まった耳先が覗いている。
「…ありがとう、ミキちゃん。嬉しいよ」
告白を受けた長身の男は、整った端正な顔を柔らかく綻ばせ、微笑んだ。
はにかんで笑うと甘さが加わり、また別の魅力を垣間見せている。
早朝、通学の途中で遭遇した、甘酸っぱい告白シーン。
素朴で可愛い女の子に、長身で華やかなイケメン…。
ドラマ撮影でもしてるのかと思う組み合わせに、桐生 司は暫く、二人の初々しい姿に釘付けになっていた。
(告白って、いいよな。自分の想いを言葉にするのは、勇気が要るもんな…。俺も今日、告白する予定だったから…。緊張で全っ然、眠れなかったよ)
スッと、桐生の頬を一筋の涙が流れた。
少女を挟んで、向かいにいる瀬那と目が合う。
遠目だが、ニタリと口元を歪めた気がした。
新しい一日の始まり。
期待を胸にスタートラインを切った瞬間、彼は崖から転がり落ちた、散々な気分でいた。
(こんなのって、アリかよ…!)
正に今日、素朴で可愛いミキちゃんに、桐生は勇気を出して告白する所だったのだ…。
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