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「当たる前に砕けたか。まあ、おつかれ」
その日の昼休み、友人である平田 章吾に、雑に慰められた。
「何だよ。最初から、勝ち目ないみたいな言い方だな」
怒りに任せてサンドイッチを頬張ると、平田はうん。とあっさり頷いた。
「だって、ミキちゃんてお前と同じクラスだろ?だったらどうしても、トップ3に靡くって」
トップ3とは、桐生と同じクラスにいる、厄介なイケメン達の事だった。
相澤 真、夏目 玲一、そして瀬那 正則。
単に美形なだけでなく、彼らは文武両道を地で行くタイプで、おまけに家も裕福らしい。
「女はリッチなイケメンに弱い生き物なんだから、仕方ないって」
冷静な平田に、それでも食い下がった。
「だってミキちゃん、凄い優しい子なんだぜ?俺の川柳クラブ立ち上げるの、手伝ってくれたし」
「渋いなぁ」
「いい感じだったし、絶対行けると思ったのに…!あんなチャラチャラした奴に靡く子じゃないって、信じてたのに…」
桐生のいるクラス、二年A組は今、カオスな状況となっていた。
一年の入学式の時から、全ての女の子達の心を鷲掴みにしてきた三人が、二年になって同じクラスに配されたのだ。
「女の子達は根こそぎ持っていかれるから、他の陽キャはおこぼれ預かろうと、三人の機嫌取りに必死だし、それが出来ない奴等は、遠巻きに関わらないようにしてるしさ」
イケメン三人のせいで、まだ始まったばかりのクラスは完全に、分断してしまった。
ちなみに桐生は、遠巻き組の方にいる。
「俺はC組で良かったわ…。あんなクラス、精神衛生上よろしく無さそうだし。ていうか、あの三人って仲悪そうだよな。なのに何でいつも、一緒にいるんだ?」
平田は四個目の菓子パンを咀嚼しながら、不思議そうに訊いた。
「知らねーよ。イケメントリオの考える事なんざ。お互いに足引っ張りあって、自分が一番になりたいだけとかじゃねぇの?」
フン。と鼻を鳴らすと、平田は苦笑した。
「相変わらず口悪いな。…お前昔は、ガキ大将だったもんな。今はこんなだけどさ」
「……」
桐生は食べ終えたサンドイッチのフィルムを、レジ袋に突っ込んだ。
子供時代、みんなの中心人物だった奴は、大人になると勢いが落ちて、地味で平凡になるパターンが多いと言う。
桐生が正に、それだった。
彼は子供の時、他の子より身体が大きく、既に骨格が出来上がっていて、運動神経も良かった。
正義感が強く、理不尽に叩かれたり、いじめられている子を放っておけず、殴り合いのケンカばかりしていた。
大人からは乱暴者、と烙印を押されていたが、慕って来る子は多く、桐生の周りには常に人がいた。
「あの事故さえなけりゃ、桐生もトップ3に入ってただろうな。そうなると…イケメン四天王って、お呼びしないとな」
冗談めかして話す、平田の背中を叩く。
「あんな奴等と一緒にすんな。昼休み終わるし、戻ろう」
ずり落ちた眼鏡を押し上げ、右脚を庇いながら立ち上がった。
屋上は封鎖されている為、二人はいつも、鍵のかかった引戸の前で昼食をとっている。
屋上の風に当たりながら、失恋の痛手を友人に慰めて貰う…。
そんな良くある青春のひとコマも、体験させてくれない無機質な場所から、二人は駆け降りた。
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