Ⅰ.男は見た目に弱く、騙され易い

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『えぇーっ?!告白、ダメだったの??』 『うん…。というか、好きな子が他の奴に告白してるの、見ちゃったから』 今朝のショックを思い出し、桐生はキーボードの上で項垂れた。 彼は今、始めて二年経つオンラインゲームをしていた。 無料では無く、高校生には高いと感じる料金設定だが、その分おかしな奴は少ないし、グラフィックも綺麗で、マイペースに遊べるから気に入っていた。 『そうだったんだ…。それは、ショックだよね;』 mellowは、悲しみを表すモーションをした。 ウェーブがかった、肩まである金髪が揺れている。 彼女はNPCでなく、ちゃんと本物の人間が操作しているキャラだ。 桐生にとって、このゲームで一番、仲の良いフレンドだった。 ちまちま、合成で使う素材を集めていたら、 『私は使わないので、どうぞ☆』 と言って、手渡してくれたのが、仲良くなるきっかけになった。 『しばらくは、立ち直れないかも…』 つい泣き言を漏らすと、mellowは数秒の後、 『tukasaさん、その子の事、ホントに好きだったんだね』 と返した。 mellowには度々、恋愛の相談をしている。告白を決めた時も、暖かく応援してくれた。 それなのに、とうとう告白も出来ずに、恋が終わってしまった。 『せっかく色々相談に乗ってくれたのに、ごめん。mellowちゃん』 『ううん。そんなのいいから。それよりtukasaさんが、心配だよ』 慰められ、桐生の胸がじんと染みた。 mellowはいつもこんな調子で、とても優しい。 実はアドレスも交換していて、お互いにスマホで連絡を取る事もある。 同い年であることも、分かっていた。 『わたし…。tukasaさんを、慰めてあげたいな』 『十分、慰められているよ』 画面の前で微笑むと、mellowが言った。 『そうじゃなくて、直に会って、お話したいの』 ドクンッ…。と胸が高鳴り、チャットログから目が離せなくなった。 『えっとそれって…。リアルで、会うって事?』 キーを打つ指が、ふわふわと感覚がない。 『そう。だってわたしたち、四駅しか離れてないんだし…』 失恋の痛みを忘れてしまえる程、魅力的な提案だ。 同い年というだけでなく、mellowは割りと、近くに住んでいる女の子だった。 (どうしよう…。会ってみたいとは、思うけど) 期待と不安がない交ぜになり、キーを打つ手が止まった。 『…やっぱり、リアルじゃ、イヤ?』 迷いを感じ取ったのか、mellowが窺うように言った。 『ううん。そんな事ないよ』 彼女を傷付けたくなくて、そう返事していた。 mellowはその場でぴょんと飛び上がると、 『それじゃ、◯駅前にあるカラオケに行こうよ!そこでわたしの友達がバイトしてるから、一番良い部屋、予約しとくっ。なに歌おうかな~♪』 と、返した。 ただの文字の羅列でしかないのに、mellowの嬉しさや喜びが、ひしひしと伝わってくる。 桐生は、彼女と会うのを少しでも不安に感じた事を、申し訳なく思った。 (確かに、mellowちゃんとは一度も顔を合わせた事がないけど…。ついさっき、知り合った仲じゃない。お互いに色んな事相談しあって、良い関係を築いて来たじゃないか) 何気ない日常や、些細な悩み等、これまでmellowとしてきた会話は、数えきれない。 真剣に悩みも聞いてくれて、どれだけ助かった事か。 彼女が性格の良い女の子であるのは間違いないし、ゲームの延長線上で、少し会うだけだ。 ー何も問題はない。 会話の区切りが付いた所で、他のフレンドも、桐生達のいるフィールドにやって来た。 『やっほー♪遅れてゴメンね』 『今日は、どこに行こっか?』 nono,と、kayaの二人は、桐生達に手を振った。 後から現れた二人は、いずれも彼がソロプレイしていた時に出会ったフレンドだ。 既にフレンドだったmellowに二人を紹介すると、あっという間に打ち解けて、仲良くなった。 この三人と一緒にクエストをこなすのが、いつしか恒例となっていた。
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