再会

2/3
904人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
 松尾の運転で連れてこられたのは、いくつものオフィスが入るビルだった。 「ここの五階にある、オーブっていう若い女性向けのアパレル会社なんだ。主にルームウェアとかを取り扱ってるんだけどさ、そこの受付にめちゃくちゃかわいい女の子がいて、絶対にお前好みだと思うんだよ〜」  やっぱりそういうことか。この理由で散々連れ回された。  エレベーターが止まり、廊下を左方向へ歩き出す。えんじ色の絨毯を進んでいくと、目の前に"aube"の流れるような字体の社名が見え、白が基調の入口が見えてくる。  松尾が受付の女性に話しかける間、恭介は松尾の後ろに立っていた。 「JPFの松尾でーす」  確か受付の女性って言ってたよな。恭介は松尾が話している女性を見たが、ショートカットでボーイッシュなイメージの女性だった。  だとすると隣に座っている女性だろうか。下を向いて何か書き物をしているようで、一向に顔を上げようとしなかった。 「あら、松尾さんじゃない。ちょっと待っててね〜」  かなり親しいのか、松尾は手を振って女性を見送る。すると今度は隣にいたもう一人の女性に声をかける。 「畑山(はたけやま)ちゃ〜ん、元気してる?」 「元気ですよ」 「相変わらず素っ気ないな〜」 「何度も言ってますが、私は女性担当です。男性は日比野(ひびの)さんにどうぞ」  畑山……? 恭介は時間が止まったような気持ちになった。しかも今の声と話し方……心臓が早く打ち始める。まさか……。  恭介は一歩前に出ると、受付カウンターの前に立つ。その様子に気付いた松尾と女性が顔を上げた。  その瞬間、女性が目を見開いて固まった。 「おっ、篠田。こちらがお前に紹介したかった畑山さん。なっ、お前の好みにドンピシャだろ?」  恭介と畑山は見つめ合ったまま、お互い動けなかった。  そんな中、恭介は精一杯の笑顔で話しかける。 「あの……JPFの篠田恭介と申します。失礼ですが、お名前を伺っても?」  すると畑山はにっこり微笑む。 「いえいえ、名乗るほどのものではございませんので、私のことはお気になさらず」 「ん? 畑山ちゃん、どうしたの?」 「そんなこと言わずに是非教えてください」 「私は女性担当なので、用件は日比野にお願いします」  席を立とうとした畑山を、恭介は腕を掴んで止めた。 「待てよ……お前、畑山智絵里(ちえり)だろ……」 「……違います」 「えっ、なんで畑山ちゃんのフルネーム知ってるんだ? 智絵里なんてかわいい名前、絶対に忘れないよなぁ」 「……えぇ、絶対に忘れないですよね。なぁ、智絵里」  恭介は睨みつけるように智絵里を見る。智絵里は慌てて顔を逸らした。 「お待たせー」  その時日比野が戻ってきたため、恭介は驚いて手を離してしまった。そのタイミングで智絵里はダッシュで逃げ出す。 「あっ、おいっ……! 智絵里!」 「智絵里ちゃん⁈」  残された恭介は呆然と立ち尽くす。なんで逃げるんだよ……。やっぱりあいつは俺に会いたくないのだろうか。そう考えると苦しくなった。 「ま、まぁ篠田、とりあえず仕事しようぜ。話はその後聞いてやるからさ」  松尾に促され、恭介は渋々仕事に戻った。    
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!