再会

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 あの後、どこを探しても智絵里を見つけることは出来なかった。  会社に戻った恭介は、力が入らず椅子に座ったまま動けなくなる。  やっと見つけたのに、その途端に拒絶されてしまった。ただ勤務先がわかったことは収穫だった。 「ほい、お疲れ様」  松尾は恭介に缶コーヒーを渡すと、隣の席に座った。 「お前と畑山ちゃんって知り合いだったの?」 「まぁ……高校の時の同級生です」 「もしかして今朝言ってた友人って……」  恭介は頷く。隠してもどうせバレるだろうし、ただの友人なら隠す必要もない。  缶コーヒーを開けて一口飲むと、恭介は肩を落とした。 「高二、高三と同じクラスで仲が良かったんですよ。でも三年の終わりくらいから急に様子がおかしくなって、卒業したら音信不通です」 「付き合ってたわけ?」 「そういう恋愛感情はお互いなくて、純粋に友人の一人って感じ」 「でも確実に畑山ちゃんが、お前の好みの原点だよな。だってそれ以外にいないだろ。でも驚いたよ。お前の好みだろうなぁとは思ったけど、まさか本人だとは」 「いや、だから恋愛感情はなくて……」 「何言ってんだよ。友達から始まる恋なんていくらでもあるんだぞ。むしろその方がお互いを知ってるから付き合いやすいらしい」 「……いやだから、なんで付き合う前提なんですか」 「わかんないけどさ、居心地が良すぎて、恋愛感情まで到達しなかったんじゃないかと思ってさ。今ならそういうの抜きにして考えられるかもよ。どうする? 日比野さんに頼んで、飲み会とか開いてもらう?」 「あはは。たぶんあいつ来ないですよ。そういうの好きじゃないと思うし」 「……お前、すごいな。そうなんだよ、いくら誘っても反応なし」  さすが智絵里。相変わらずなんだな。それを聞いて恭介は少し安心した。 * * * *  智絵里は会社が入るビルから逃げ出し、隣のビルの中にある喫茶店にいた。レトロな雰囲気が人気で、昔からの常連客が長時間入り浸っている。  アイスティーを頼み、年季の入ったソファに体を沈める。まだ心臓がバクバク鳴っている。  まさかこんなところで恭介と再会するなんて思っていなかった。私が唯一後ろめたさを感じている人物が彼だった。  恭介のことだから、きっとまた来るに違いない。だって極度の心配性のお節介焼きだから。イヤイヤ言いながら、構ってくれるからつい頼りにしてしまっていた頃が懐かしい。  ただだけは頼ることが出来なかった。そして逃げ出してしまった……。  きっと恭介を傷付けた。それがわかっているからこそ、会ってはいけないと思うの。  その時、智絵里のスマホに日比野からのメッセージが届く。 『二人とも帰ったから戻っておいで』  智絵里はスマホを握ったま下を向く。  恭介、大人になってたなぁ……。私の心はあの日で止まったまま。今も闇の中にいるのに。  
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