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◇1 ひきつぐもの◇
この恋心が手垢にまみれるくらいならば、いっそ誰にも知られずに死んでしまおうと思った。たぶんそれが真実の愛なのだと、そう信じていた。
***
昔から、中古品が苦手だった。
初めて中古品というものを手に取ったのは、近所の古本屋だった。ぺたぺたとした独特の感触の表紙、紙に染み付いた煙草の匂い、時間を吸い込んで変色した紙。どれもこれもが元の持ち主の思い出だとか、あるいは情念だとか。そういったものをたっぷりとまとっているような気がして、それがなんというか、とても気味の悪いものに思えた。
お小遣いではどうしても手が届かないコミックのシリーズを揃えるために手にした古本だったけれど、結局それきりその古本屋に足を踏み入れることはなかった。
少女漫画のシリーズの第八巻。中古で手にしたその巻だけが、いまでも「私のもの」になったという気はしない。何年も本棚に並んでいるそれは、いつまで経っても他人のものだ。
どれだけ中古品を所持し続けていても、元の持ち主がどんな人だったのか、どういう思いでそれを買ったのか、どうしてそれを手放すことになったのか……それがわかることはない。
その事実は、私を不安にさせる。
わからないものは、気味が悪い。
「契約者様の変更、ということでよろしいでしょうか」
携帯ショップ。
完璧に優しげなスマイルを浮かべたスタッフの淀みない言葉に、無言で。
目の前のテーブルには、時代に取り残されたような二つ折りの携帯電話が置かれている。いわゆる、ガラケーだ。白くつるりとして、そっけないフォルムをしている。
「承知いたしました。それでは、こちらの機種の契約者様変更をさせていただきますね」
「お手数をおかけします」
「お名前とお電話番号を確認ください。……神崎はるか様、で間違いございませんか」
「はい、間違いないです」
神崎はるか。見慣れた私の姓名である。
ちらり、と時計を確認する。
午後四時。このまま順調に契約が終われば、大学の課題レポートの提出には差しさわりなさそうだ。早く帰って作業にいそしまなくてはいけない。期末レポートを落としたら単位がやばいので。
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