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ブルガリア帝国摂政のイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナはエピロス専制公国のテオドロスⅠ世コムネノス・ドゥーカスの娘である。
エピロス専制公国はラテン帝国の成立によりコンスタンティノープルから追いやられたビザンチン帝国の亡命政権の一つである。
ビザンチン帝国のアンゲロス王朝の初代皇帝イサキオスⅡ世アンゲロスの従兄弟ミカエルⅠ世コムネノス・ドゥーカスが、ギリシャ西岸の街アルタを首府として建国した。
当初はヴェネツィアや十字軍の建てたテッサロニキ王国へ臣従しながら地歩を固めていたが、その後反旗を翻してギリシャ西北部・エピロス地方を占領、東方のニカイア帝国とならぶ一大勢力に成長した。
ミカエルⅠ世が暗殺されたため、後を継いだ弟のテオドロスⅠ世は勇猛果敢な軍人君主で、積極的なエピロス専制侯国の勢力拡大をおし進めた。
即位の翌年、第2代ラテン帝国の皇帝アンリ・ド・エノーが死去して帝国が衰退すると、テオドロスⅠ世はすかさずテッサロニキ王国に侵攻し、王国を滅ぼした。
この結果、エピロス専制侯国はエピロスからテッサリア、マケドニアに及ぶ大領土を支配するようになり、この勢力を背景としてテッサロニキにて皇帝を称した。このため、この時期の専制侯国は、「テッサロニキ帝国」とも呼ばれる。
その後、コンスタンティノープル奪還とビザンチン帝国の復活に向けて順調に勢力を拡大していった。
しかし、時のブルガリア帝国皇帝イヴァン・アセンⅡ世もコンスタンティノープル征服を目指していたため、両者の関係は険悪なものとなった。
結果、テオドロスは8万の軍勢を率いてブルガリア遠征に乗り出すがクロコトニツァの戦いで8万人が全滅するという壊滅的な敗北を喫し、自身は捕虜となってしまった。
エピロスの支配権は弟マヌエルが引き継ぐが、皇帝の称号を諦め、ニカイア皇帝ヨハネスⅢ世から専制公の称号を受け、ニカイア帝国の宗主権を認めざるを得なくなった。
専制公とは、ビザンチン帝国の皇帝に次ぐ地位で、皇帝の嫡男などの後継候補が就いていた。
◆
イレネ・コムニーナ・ドゥーカイナは、父テオドロスとともに捕まり、ブルガリアにて虜囚生活を余儀なくされた。
そのうちイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナは、その美貌で知られるようになると、イヴァン・アセンⅡ世と恋に落ちた。それは「アントニーがクレオパトラを愛するに負けず劣らない」ものだったという。
テオドロスは、イヴァン・アセンⅡ世の皇后アンナ・マーリアの死去に伴い、娘のイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナを彼と結婚させる条件で釈放された。
が、実際には、イヴァン・アセンⅡ世とイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナは結婚の数年前から愛人関係にあったともいわれる。
しかし、イヴァン・アセンⅡ世は急死し、前皇后アンナ・マーリアの息子で長男のカリマンⅠ世が皇帝となったが、皇后で義母のイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナは摂政としてこれを懸命に支えていた。
◆
エピロス・テッサロニキ専制公のデメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスは、今日何度目かの深いため息をついた。
ブルガリア皇帝イヴァン・アセンⅡ世の捕虜となっていたテオドロスが帰国すると、統治職を代行していた叔父マヌエルを追放し、長子であったヨハネスにテッサロニキの支配権を与えた。
しかし、この事は却って一族の結束を弱め、追放されたマヌエルはテッサリアに、また父の従兄弟に当たるミカエルⅡ世アンゲロス・コムネノスはエピロスにそれぞれ独立勢力を築き、かつての「帝国」は三分割されてしまった。
兄ヨハネスの死去によりデメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスはテッサロニキの支配権を継承する。
しかしテッサロニキ専制公国は元々の根拠地であったエピロス地方とも切り離され、ニカイア帝国の宗主権を受け入れて、もはやこれと対等に競う存在ではなく、若年のデメトリオスに情勢を挽回できる力はなかった。
そのデメトリオスに、ニカイア帝国皇帝ヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスから密命がくだったのだ。
内容はブルガリア帝国皇帝カリマンⅠ世を毒殺せよというものだった。そのうえで、その機に乗じてニカイア帝国軍とともにブルガリア帝国へ侵攻するという。
確かにブルガリア帝国摂政のイレネ・コムニーナ・ドゥーカイナはエピロス専制公国の出身であり、その付き添いで多くの関係者がブルガリア帝国に入り込んでいる。
これらの者とうまくつなぎを付ければ実行は可能に思える。
しかし、カリマンⅠ世はまだ成人前の子供だ。
それにデメトリオスは、少し年上だが美貌のイレネに憧れの感情を抱いていた。イレネは初恋の人だったのだ。
イレネは義理の息子であるカリマンⅠ世を懸命に支えている。
彼女に毒殺を持ちかけても必ずや否定されるだろう。
だが、他の者を使って毒殺したとしても、真っ先に疑われるのはイレネであろうことも予想できた。
彼女の実子である弟のミハイルⅡ世・アセンがいるからだ。
人々は、我が子を皇帝にするために、義理の息子であるカリマンⅠ世をイレネが毒殺したと思うに違いない。
──だが、感傷に浸っている場合ではないか…
現実問題として、例えばブルガリア帝国と組んでニカイア帝国に抵抗することができるか?
いや。無理だ。
結局のところ、デメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスに残された選択肢はないのであった。
◆
ある夜。神聖帝国皇帝フリードリヒは夢を見た。
ブルガリア帝国摂政イレネ・コムニーナ・ドゥーカイナが喪服姿で誰かの死を悲しんでいる。
その前には子供の遺体があった。
あれはブルガリア帝国皇帝のカリマンⅠ世だ。
しかし、その遺体の様子がおかしい。皮膚の色が紫色に染まって斑になっている。
これは毒殺の可能性が濃厚だ。
フリードリヒは、そこで目が覚めた。
──俺は…喪服フェチになったのか…?
いや。先ほどの夢はかなりクリアに覚えているので、予知夢であろう。
「成人前の子供を暗殺するとは絶対に許せん!」
前世も今世も子供の親として、これほどかけがえのない存在はないとフリードリヒは常日頃思っていた。
犯人は、フリードリヒの逆鱗に触れてしまったのだ。
◆
次の日。
タンバヤ情報部のアリーセを呼んだ。
「ブルガリア帝国皇帝についての情報は入っていないか?」
「いえ。特にはありませんが…」
突然の問いに不審に思うアリーセ。
──これは…教皇暗殺の時と同じだ…
「ブルガリ帝国のカリマンⅠ世が暗殺されるおそれがある。成人前の子供を暗殺するなど言語道断。絶対に許せん! なんとしても阻止せよ!」
「ぎ、御意!」
──こんなに激情する陛下は初めてだ…これは失敗できないな…
「万全を期して、まずは眷属4人組で情報を探れ!」
「御意!」
アリーセ他4人の眷属たちは早々に出発していった。
◆
アリーセはレネ、ベルント、ラウラに言った。
「今回の陛下の力の入れようは半端ではない。本気で行くぞ!」
「了解した」
4人は、眷属化や闇魔法による魅了など持ちうるあらゆる手段を使ってブルガリ帝国宮廷内を探っていく。
どうやらイレネがエピロス専制国から連れてきた侍女たちが実行を計画していることがわかってきた。
だが、侍女たちには毒殺の動機はない。
必ずや黒幕がいるはずだ。
更に探っていくとエピロス・テッサロニキ専制公のデメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスが指示を出していることがわかった。
だが、あのような弱小国に成り下がったテッサロニキがブルガリア皇帝を暗殺して何の得があるというのか?
──ひょっとして更なる黒幕がいるのかもしれない…
アリーセはテッサロニキへも探りを入れることにした。
アリーセが指示を出す。
「ラウラとレネは引き続きブルガリ宮廷を探ってくれ。私とベルントでテッサロニキに探りを入れる」
「承知した」
テッサロニキで探りを入れる。
アリーセはデメトリオスの私室に忍び込むと、厳重に鍵をかけられた文箱を発見した。
鍵を開けて中を見ると案の定ニカイア帝国皇帝ヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスからの密書が何通か見つかった。
素早く目をとおし内容を記憶すると元に戻した。
密書によると、皇帝暗殺を混乱時とタイミングを合わせて、ニカイア・テッサロニキ連合軍がブルガリアに侵攻し、領土をかすめ取ろうという魂胆のようだ。
これで計画のアウトラインは見えてきた。
アリーセはひとまずフリードリヒに報告をすることにする。
◆
フリードリヒに拝謁するとアリーセは報告する。
「計画のアウトラインが見えてきましたので、ご報告いたします」
「ああ。頼む」
「暗殺の指示はエピロス・テッサロニキ専制公のデメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスがエピロス専制国出身の侍女たちに出しているものでした」
「そうだとして、あのような衰退した国家がそのようなことをして何の得がある?」
「実は更なる黒幕がいました。宗主国であるニカイア帝国の皇帝ヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスからの密命によるものでした。
ニカイア帝国はブルガリア皇帝暗殺の混乱に乗じてニカイア・テッサロニキ連合軍をブルガリアに侵攻させ、領土をかすめ取る魂胆のようです」
「なるほど。そういうからくりか…」
フリードリヒは考えた。
ここまで大規模な計画であれば、実行犯だけとらえても意味がない。できれば一番の黒幕のヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスを引きずり出してきて痛い目にあわせてやりたいところだ。
フリードリヒは考えを巡らし、一つの方策を思いついた。
──悪いがカリマンⅠ世には少しだけ我慢をしてもらおうか…
「引き続き調査を続けてくれ。一番大事なのは決行日を特定することだ」
「御意」
◆
そしてアリーセから決行日が特定されたとの連絡がフリードリヒに入った。
フリードリヒはプラハのガイア帝国支部の視察の用事を無理やりねじ込み、近くまで来たから幼帝のご機嫌伺いをするという名目で急遽ブルガリア訪問を申し入れた。
摂政のイレネはこれを受け入れた。
そしてまさに暗殺の決行日に急遽フリードリヒの歓迎晩餐会が開催されることになった。
実行犯の侍女たちは当惑した。
「神聖帝国皇帝の目の前で毒殺するのか?」
「しかし、今更実行日は動かせない。ニカイア帝国ではすでに軍が進発している時刻だ。今から使いを出しても間に合わない」
「それならば、実行あるのみということか。やむを得ない」
実行犯たちは覚悟を決めた。
◆
そして晩餐会は開かれた。
フリードリヒは乾杯の音頭をとった。
「ブルガリア帝国、神聖帝国、それからガイア帝国の未来永劫の発展を祈念して…乾杯!」
カリマンⅠ世はまだ成人前であるので、強い酒は飲めないので、ワインを水で薄めたものを飲んだ。
しかし、突然に苦しみだすと喀血し、倒れ込んでしまった。
それを見たイレネは悲鳴をあげた。
「誰ぞ。医者をよべ。早く!」
「はっ」
フリードリヒは主賓としてカリマンⅠ世の横に座っていたので、これを抱き起すと心臓に耳を当てた。
が、首を横に振ると言った。
「もう間に合いません。呼吸も心臓も止まっています」
イレネは再び悲鳴をあげた。
カリマンⅠ世の遺体に駆け寄ると号泣している。
恐慌状態のイレネに替わってフリードリヒが指示を出す。
「直ちに憲兵を手配しろ、実行犯を絶対に逃がすな!」
これをきっかけにブルガリア帝国の官吏たちが慌ただしく動き出した。
実行犯たちは、あらかじめ高跳びの準備をしていたのだが、待ち構えていたアリーセたちに阻止され、身柄を拘束された。
これをブルガリアの憲兵たちに引き渡す。
「あなたたちは一体何者ですか?」
「フリードリヒ皇帝陛下の警備の者です。警戒していたところ怪しい者がいたので拘束しました」
「それは…ご協力感謝いたします」
◆
カリマンⅠ世の遺体は喀血で汚れた血を清められ、衣服を整えて私室のベッドに横たえられていた。
イレネは遺体に付き添っているが、まだ時々思い出してはグズグズと泣いている。
フリードリヒはその部屋で立ち会っていたのだが、イレネの肩を後ろから優しく抱くと、耳元で囁いた。
「大丈夫。カリマンⅠ世は死んではいません」
「えっ!」とイレネは驚きの声をあげた。
フリードリヒは咄嗟にイレネの口をふさぐと再び囁いた。
「ここでは敵がどこにいるかわかりません。小声で囁いてください」
イレネはコクコクと頷いた。
「実はカリマンⅠ世は私が魔法で治療のうえ、闇魔法で仮死状態にさせてもらいました」
「なぜそのようなことを?」
「カリマンⅠ世が死んだと誤認させて、本当の黒幕を引きずり出すためです。間もなく、ニカイア帝国・テッサロニキ連合軍がブルガリアに侵攻してくるでしょう」
「それは最初から狙って?」
「もちろんそうです。すべてニカイア帝国皇帝ヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスがブルガリアの領土をかすめ取るため、仕組んだことなのです」
「何と卑劣な! しかし、今のブルガリア軍では太刀打ちできそうもありません」
「大丈夫です。既にロートリンゲン軍が迎え撃つ配置についていますからご安心を。ブルガリア軍は残敵の落穂拾いでもしていてくれればけっこうです」
「それを全部見越していたというのですか?」
「もちろんそうです」
「それは…何という…」
イレネは開いた口が塞がらない。
「では、私は軍の指揮がありますので、これで…」
というとフリードリヒは去っていった。
イレネは思った。
規格外の人だとは思っていたが、これほどとは…
この人を出し抜ける人などこの世に存在しているのだろうか?
◆
軍の配置では悪魔アビゴールの能力を最大限に活用する。
アビゴールは、戦況の行く末や敵の兵員の移動先を見通し、助言する能力を持っている。
セイレーンのマルグリートと配下の鳥たちで上空から敵情偵察に出していたが、報告がある。
「すべてアビゴールの見通しどおり動いているわ」
「よし。それでは予定どおり配置につけ!」
「御意」
それから悪魔ベリアルとアスモデウスを呼んだ。
「おまえたちは、戦闘開始と時を合わせて配下の悪魔軍団を召喚し、ニカイア帝国とテッサロニキの主要都市を制圧しろ。
数は5万でも10万でも任せる。だが、抵抗する者以外は傷つけないようにしろよ」
「これは主殿。ようやく我々が望むような戦いができそうですな。御意にございます」
◆
いよいよニカイア帝国軍がやって来た。
フリードリヒは望遠鏡で視認すると、まずは砲兵隊に遠距離射撃の指示を出す。
ロートリンゲン軍の戦術ドクトリンは概ね決まっていた。
まずは、砲兵隊の遠距離射撃で敵を削れるだけ削ると、次は航空戦力で更にダメージを加え、敵が弱ったところで騎馬隊の無停止攻撃で蹂躙し、最後にダークナイトを中心とした歩兵で制圧するのである。
今回の戦闘は面白いようにドクトリンどおりに進んだ。
ただ、違っていたのは航空戦力としては普段は温存している竜たちを最初から投入したことだ。
フリードリヒは今回の件は怒り心頭に発しており、ニカイア帝国軍を全滅させることも辞さないつもりだった。
だが、ペガサスに乗った騎兵・魔導士、蠅騎士団に加え複数の竜のブレスの攻撃を受け、おまけにフリードリヒも手加減なしの雷霆を落としまくっていたところ、ニカイア帝国軍の兵士たちは、その3割程度削ったところで次々と恐れをなして投降してきたのだ。
肝心のヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスはというと、早々に戦況を見切り、親衛隊とともに逃走を図っていた。
千里眼でヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスを発見したフリードリヒは、テレポーテーションで転移して彼らの前に立ちふさがると、ダークアローの雨を降らせ、彼らを麻痺させて制圧し、ヨハネスⅢ世ドゥーカス・ヴァタツェスの身柄を確保した。
一方、テッサロニキ軍の方は、アダルベルト率いる別動隊に当たらせたが、こちらもあっけなく勝利した。
しかし、デメトリオス・アンゲロス・ドゥーカスは追い詰められると自らが毒殺の首謀者であることを悲観して、自害してしまい、身柄は確保できなかった。
こうしてニカイア・テッサロニキ連合軍との戦闘は1日であっけなく終わったのだった。
◆
フリードリヒは戦闘終了後、素早くブルガリアに戻った。
一刻も早くカリマンⅠ世を蘇生させてやりたい。
カリマンⅠ世の私室に行くとイレネが驚いていた。
「もう終わったのですか?」
「ええ。ニカイア・テッサロニキ連合軍は制圧しました。ご安心を。
それよりもカリマンⅠ世を早く蘇生してあげないと可哀そうです」
「そうですね。よろしくお願いいたします」
「では…」
フリードリヒが仮死の闇魔法を解除するとカリマンⅠ世の顔に赤みが差し、呼吸も始めた。
イレネはカリマンⅠ世に駆け寄り抱きかかえた。
そこでカリマンⅠ世の意識が戻った。
「あれ。義母上。私はいったい…」
「フリードリヒ皇帝陛下が魔法で助けてくださったのです」
「そうだったのですね。あの時は苦しくて、本当に死ぬと思いました。助けていただき、本当にありがとうございます」
「子供が死んでいくのを見るのに忍びなかった。それだけです。
むしろカリマン陛下には悪いことをしてしまった。親玉を釣り出すためとはいえ、陛下を仮死状態にしてしまった。申し訳ない」
「いえ。そんなことは…そうしなければ事態は解決しなかったのでしょう?」
「一気に事を片付けるためには必要だったのです」
「ならば仕方がありません」
「とにかく、長い間仮死状態にあったために、体には負担がかかってしまったはずです。しばらくはゆっくりとご静養なさい」
「わかりました。これを口実に義母上には思いっきり甘えさせてもらいます」
「まあ。陛下ったら…困ったこと…」
といいながらイレネの顔は微笑んでいる。
実子ではなくとも愛した夫の子が心底可愛いのだろう。
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