17人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話『寄席の妖精さん』
一番太鼓が鳴っている。
お囃子のお姐さんが三味線を調弦し、前座たちは慌ただしく楽屋仕事に精を出す。
楽屋の小窓から覗けば、客席はまばら。
いつも通りの、寄席のはじまり。
「それでは、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします、みや吉兄さん」
俺にぺこりと頭を下げるのは、この春に楽屋入りした新米前座の『登んぼ』さんだ。
『みや吉』も『登んぼ』も芸名だ。本当の名前じゃない。
でも、この場所では。
飛び込んだ芸人としての道では、その芸名こそが本名になる。
最初のコメントを投稿しよう!