あやかし寄席物語

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第1話『寄席の妖精さん』  一番太鼓が鳴っている。  お囃子のお姐さんが三味線を調弦し、前座たちは慌ただしく楽屋仕事に精を出す。  楽屋の小窓から覗けば、客席はまばら。  いつも通りの、寄席のはじまり。 「それでは、宜しくお願いします」 「宜しくお願いします、みや吉兄さん」  俺にぺこりと頭を下げるのは、この春に楽屋入りした新米前座の『登んぼ』さんだ。  『みや吉』も『登んぼ』も芸名だ。本当の名前じゃない。  でも、この場所では。  飛び込んだ芸人としての道では、その芸名こそが本名になる。
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