5.愛らしい子犬に誘われて〈☆〉

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 指ではなく、今度は唇で口を塞がれた。理仁の舌は容赦なく武史の口腔を這い、上顎を細かい動きでなぞられると背中が無条件で()け反った。  理仁の左足が、股の間に割り込んでくる。(もてあそ)ばれていた口の中から舌が抜かれ、今度は耳を舐められた。 「は……ぁっ」  漏れ出る声を抑えられない。かかる吐息に耳の奥をくすぐられ、耳朶(じだ)に吸いつかれると反射的に身をよじってしまう。 「逃げないでよ」  振り切ろうとしたけれど、理仁はしつこく追いかけてくる。耳全体にかぶりつき、中を舌で舐め回された。  思いのほか気持ちよくて、武史は自分でも驚くほど甘美な声を出した。額に玉の汗が浮かぶ。首をもたげる羞恥心と闘いながら、感情の高ぶりに身をゆだねる。  理仁の口が離れ、ニットとアンダーシャツを脱がされた。むき出しになった鎖骨の上を、理仁のきれいな指がすべる。 「いい。すごくいいからだしてる」  感触を確かめるように、今度は唇で浮き出たデコルテラインをなぞっていく。ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて武史のからだに唇を押し当てていく理仁の頬も、適度に火照(ほて)り、赤らんでいた。  くそ。気持ちいい――。  純粋に、理仁はうまかった。武史の感じるところをよく知っていて、してほしくないことはあらかじめわかっているかのように避けていく。ただ快感だけがそこにあって、武史のからだをみるみるうちにとろかしていった。  鎖骨に満足したら、今度は盛り上がった胸筋にキスをした。やがてピンク色の乳首にたどり着き、ちゅぅ、と激しくしゃぶりついた。 「りひ……ぁ……っ!」  全身がゾクゾクと粟立った。毒が回ったように小刻みに震え、指先から順に麻痺していくような刺激が走る。たまらない。  背を仰け反らせる武史を見て、理仁はニヤリと口角を上げた。乳首が性感帯だと知るなり、そこばかりを執拗なまでに攻めた。  片方は指でいじくり、もう片方は舌先で弄ぶ。武史は右手で自らの口を覆った。そうしていなければ、なまめかしく甘ったるい声が漏れてしまう。  どちらかというと、感じにくいほうだという自覚があった。誰かの前に屈することを本能が拒絶しているのだ。  けれど、今夜は制御が利かなかった。理仁の止まらない愛撫は武史の心の奥までくすぐり、流れ込む熱が隙間なく全身を覆い尽くす。  下半身が疼き出した。無性にムズムズして腰を動かすと、気づいた理仁が乳首をしゃぶったまま武史の履いているジーンズのベルトとホックを器用にはずした。  熱を帯びた理仁の右手が下着の中に突っ込まれる。ピンと直立した武史のものをそっと握ると、下着の外へと引っ張り出した。  先端から蜜が垂れ、竿までしっとりと濡れていた。理仁は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。  武史のジーパンと下着、靴下を剥ぎ取り、自らも黒いカットソーを脱ぐ。どちらかというと小柄な理仁だが、筋肉の筋が見えるよく締まったからだをしていた。  全裸になった武史の下の茂みに顔をうずめるように、理仁は武史の性器に唇を寄せ、先から(したた)る半透明の蜜を舐め取った。  背筋が粟立つ。根元から先へと這った理仁の舌は、甘い毒を塗りたくっていったかのように、性器の裏側だけを器用にピリピリと痺れさせた。  武史がいつも一番感じるのは裏側だった。なぜ知っているのかと()きたかったが、声が出ない。無様(ぶざま)に裏返ってしまいそうで、出す勇気が持てなかった。  そのまま口でしてくれるのかと思ったけれど、理仁の顔は茂みから離れていった。(ふと)(もも)の内側に吸いつかれる。ひぁっ、と誰のものともわからないような声が出た。  未体験の快感だった。手で触れられることは何度もあったが、しゃぶられたのははじめてだった。  唇が触れる。舌が這う。腰が浮き、背筋が反り、声が出た。感情が高ぶり、どんどん大きく膨らんでいく。 「だ……っ、やめ、そこは……!」  理仁は聞く耳を持たず、武史のからだを反転させた。うつぶせにさせられ、両膝を立てられる。  太腿から順に、理仁の口は足先のほうへと攻めてきた。膝の裏、ふくらはぎと順に愛撫され、やがて足の指にしゃぶりつかれた。  我慢できなかった。枕に顔をうずめ、首を横に振り、声を上げる。  恥ずかしくてたまらなかった。尻を晒し、足の指を食まれる。これほどまでに屈辱的な醜態を許したことはなかったし、気持ちいいと思ったことだってなかった。  そう、快感だった。  誰も気に留めないような足先まで、理仁はたっぷり愛してくれる。理仁の舌が指の隙間にねじ込まれるたびに、下半身の疼きが大きくなった。  こんな前戯があるのか。こんなにも恥辱に満ち、それでいて興奮を止められない前戯が。  腰が砕けそうになる。リミットを悟った理仁が手を伸ばし、パンパンになった武史の性器に触れた。  たったそれだけのことで感情が弾けた。軽く握られ、ほんの少しだけ動かされると、官能的な声の響きを伴って達した。  シーツに白い蜜が飛び散る。どこまでも熱く、とろとろになった全身から力が抜け、武史はベッドの上に仰向けで転がった。 「早いじゃん」  理仁がすぐに寄り添ってきて、頬にそっとキスをした。 「気持ちいい?」  目もとに腕を載せ、顔を隠す。理仁はクスクスと笑い声を立てた。 「これで終わりとか言わないよね?」  理仁が武史のからだの下に腕を入れた。  強引に抱き起される。鼻先が触れ合う距離で、子犬のような目をした理仁がぶんぶんとしっぽを振っていた。 「もっと、きみのこと教えて」  武史の返事を待たず、理仁は武史の首に両腕を回した。
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