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友だち
みそらさんが十歳も年上の人だとは思わなかった。
「じゃあ、いくつくらい離れていると思った?」と聞かれて「三つくらい」と見たままの印象を答えると「私もまだまだイケるなぁ」なんて喜んでいた。
ただ、「湊くんが生まれた時には私はもうランドセルを背負ってたんだよ」なんて言われてしまうと、あまりにもリアルで、少しへこんでしまった。
俺とみそらさんはメールのやり取りをするようになった。
連絡なんてしなくても、お客さんとして駅前の蕎麦屋に行けば、ほぼ確実にみそらさんに会える。もちろん親父さんの打つ蕎麦の味も絶品で、何度食べても食べ飽きることはなかった。
「カレーも美味しいんだよ」
商売上手なみそらさんがお勧めしてくる。蕎麦屋さんのカレーは麺つゆのだしが加わっているので一味違っているのだという。試しに注文して食べてみたら、確かに味わい深くて美味しかった。
人とメールのやり取りをするのがこんなに楽しいものだとは思わなかった。
元々人付き合いは得意じゃない。勉強もそんなに好きじゃなかったし、高校を卒業してそのまま地元で就職することも考えた。だけど、あの田舎の、なぜだかすぐに個人の情報が伝わってしまう狭いコミュニティがどうしても好きになれず、俺は新しい場所での生活を希望して、両親もそれを認めてくれたのだった。
専門学校を卒業したら地元に帰ってくるだろう。両親としてはそんな軽い気持ちで送り出してくれたのだろうが、俺は卒業しても地元には帰らず、そのまま小さな電機屋さんに就職した。
将来の夢なんてない。やりたい仕事なんかもない。だけど生きていかなければならない。何で生きていかなければならないんだろう。育ててくれた両親のため? 幸せになるため? 幸せって何だろう?
友だちがいることかな。
俺はそう思った。高校生活は楽しかった。中学の時とは違って色々な個性のある友だちと知り合えたからだ。
友だちと一緒に遊ぶのは楽しい。カラオケなんかはフリータイムを活用して時間いっぱいまで歌ったし、ボウリングも下手くそだけど突然ストライクを連発できたりして楽しい。社会人になってからやるようになったビリヤードやダーツはおしゃれだと思う。お酒を飲みながら格好つけてやったりして見事に嵌まると興奮する。
一人ではつまらない。一人では退屈なだけ。一人は寂しい。一人は怖い。
なんとなく仕事をこなしているだけの毎日で、一人の寂しさを感じていたときにみそらさんと出会えたのは、俺にとっての最高の幸運だった。
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