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「タバコ、吸ってもいい?」
「どうぞ」
彼女はバッグからタバコケースを取り出すと、中から一本を取り出して火を点けた。
思いきり吸い込んで鼻と口から豪快に出す。
「うーん。やっぱりお酒とタバコの組み合わせは最高ね」
「そうなの?」
見た目に反して言っていることがオヤジっぽくて、今度は俺が笑ってしまった。
「貴方も吸う?」
お勧めされた。
だけど、俺はタバコを吸ったことがない。子どもの頃から吸ってる奴は吸っているものなのだろうが、俺はタバコに興味がなかった。
でも、せっかくお勧めされているし、せっかく美人の彼女と話しができているので無下に断るのも良くないと思って、俺は「じゃあ、一本だけ」と言って彼女から初めてのタバコを受け取った。
彼女がライターを持って待機している。
「あ、いいよ」
「いいって?」
「えっ?」
タバコの火は咥えながら点けるものであることをまず知らない。
まごつく俺を見て察したらしい彼女が「咥えて。点けてあげるから」と促して、俺はようやくタバコを吸うことができた。
少しだけ吸って口から吐く。彼女のように深く吸い込んで肺まで入れたら、思いっきりむせてしまいそうで、流石にそれはやめておいた。
やはり美味いものじゃない。口の中全体にヤニっぽさが広がって、しばらく気持ち悪さが残りそうだった。
「どう? 初めてのタバコは?」
「うん。悪くないね」
もちろん嘘だった。
だけど、返答したすぐ後で、俺は彼女の鎌掛けに引っかかってしまったことに気がついた。「あっ」と間抜けな声が出てしまう。
また彼女が笑う。
「……可愛い」
俺はすごく恥ずかしかった。
美人の女性に可愛いと言われるのは幸せなのか不幸なのか。なんとも言えない気分である。
「ねぇ、良かったらアドレスを交換しない?」
「ケータイのアドレスですか。良いですよ」
こうして俺は天音みそらとケータイのアドレス交換をした。
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