蕎麦屋にて

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蕎麦屋にて

『この間は楽しかったです。良かったら、また何処かで会えませんか?』  とりあえず送信するメッセージを作ってみた。だけど、何か物足りなかった。  手に入れた彼女のケータイアドレスを、暇ができるたびに表示させては連絡を試みようとして断念する日が三日ほど続いた。  偶然話しかけられて知り合っただけの人。自分からお近づきになりたくて話しかけたわけではない。そもそも彼女には彼氏がいるかもしれないし、もうとっくに俺のことなんか忘れてしまっているかもしれない。もしかしたら社交辞令だったのだろうか。だとしたら、調子に乗って連絡をしたら、気持ちの悪い男だと思われてしまうかもしれない。  彼女への想いがぐるぐると回った。  連絡をすることができずに日にちだけが過ぎていくと、言い訳ばかりが自分の中に増えていく。  もう彼女のことは忘れてしまおう。四日目にしてそう思い至って、ケータイのメモリーから彼女のアドレスを消してしまおうとしていたところ、なんと彼女の方からメールが届いた。 『お蕎麦は好きですか? 良かったら、次の日曜のお昼過ぎくらいに駅の近くのお蕎麦屋さんで会いませんか?』  俺は何度もその文面を読み返した。そして提案された日曜のお昼過ぎにその蕎麦屋に行くことを了承した。
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