彼女の事情

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彼女の事情

 年齢を聞いてみると、湊くんは二十一歳だという。私より年下だとは思っていたが十も年齢が離れているとは思わなかった。  私は三十一だ。彼からすれば、もうおばさんの域にいるのかもしれない。  男の人とは今まで五人とお付き合いしたことがある。もちろん身体の関係も込みでだ。  今までに付き合った男は嘘つきだったり浮気性だったり、俺様系だったり、束縛系だったり、見栄っ張りだったりと、実にさまざまだった。  愛されたのは間違いない。だけど、結局は相手のペースに合わせるのが苦痛だったり、ひたすら身体ばかりを求められることにうんざりしてしまって、ここ一年くらいは誰ともお付き合いはしていなかった。  それよりも、私は私自身と向き合わなければならなかった。  脅迫性障害。明らかに調子が悪くて心療内科を受診したところ、下された答えがそれだった。  症状としては、とにかく些細なことが心配で仕方がなくなってしまう。  出かける時なんかがそうだ。ガスの元栓は閉めたか、玄関のドアはちゃんと施錠したか。何度も何度も確認してしまう。眠る時もそうだ。考えなくてもいいことをあれこれと考えてしまい、午前三時だというのに電話をかけてしまったりする。思えばそれが原因で彼氏と険悪になって別れたこともあった。  生きていると色々考えたりする。恋人のこと、たった一人で私の生活を支えてくれているお父ちゃんのこと、お店のこと、常連さんのこと、仕事のこと。  特に仕事に関しては深刻だった。  二年制の短大での就職活動の時に得意な英会話スキルを生かして外資系の証券会社を希望した。友達は「どうせ受からないから辞めときなよ」なんて言っていたが、思いきって受けた面接の結果は採用だった。  こうして私は証券マン(証券ウーマン?)として働き始めたわけだが、金融やトレードの知識があったわけではなかった。  だけど、外資系は年功序列ではなく実力評価主義のため、頑張れば頑張っただけ高額の給料がもらえるとのことだった。  勉強はあまり好きじゃなかったけれど、やればやっただけ給料が増えるのなら、やった方が良いに決まっている。私は金融業界の仕組みや法律などの本を何冊も読み、それと同時に、それをビジネス上で英会話として使用できるように、より専門的な英語の勉強を行った。  誰にも負けたくない。一流大学を卒業して働いている証券エリートたちはいつも自信に満ち溢れている。だからだろうか。そうでない人たちに対してはひどく見下したような態度を取ったりする。  相手が女だとさらにその扱いはひどい。どうせすぐに結婚して辞めちゃうんだろうとか、一流のできる男を漁りに来ているんだろうとか、明らかにセクハラである。  同期の仲間たちが仕事についていけなかったり、パワハラやセクハラで辞めていくのを横目に、私は頑張った。そう、頑張ったのだった。
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