牙と追憶

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◇◇◇ 「呪われておる」 「やはり忌み子だ」  俺と弟は大人に取り囲まれて震えていた。  投げかけられる忌避と侮蔑と恐れの入り混じったような瞳。目の前の男は棒切れを振りかぶる。 「出て行け!」  その一括にびくりと震え、ざわざわと泡のように広がる『出て行け』の声に思わず後退る。  何故だ。何が出ていけだ。ここは俺たちの家だ。  けれどもダンと眼の前の男、確か村長が足を踏み出した。  何故だ。出て行くべきはお前らだ。  けれども多勢に無勢。俺と弟二人に対して取り囲むのは十人を超える大人の男たち。  後はもう逃げるしかなかった。  山深い村を飛び出し一目散に夕闇を走り抜けた後は、とぼとぼと弟と一緒に当て所なくさまよい歩いた。とりあえず日が暮れるまでまっすぐ道沿いに歩いて、知らない辻に差し掛かったときにとっぷりと夜が来て、弟に袖を引かれた。 「……兄ちゃん、腹減った」 「そうだな、どうしようか」  途方に暮れる。  なにもない。食べられるものは俺のこの身しか。あまりに急いで飛び出したから、何も持ってくる余裕はなかった。卑怯者どもめ。沸々と怒りが湧き上がる。  日はすでに暮れ落ちていて、全てが闇に飲まれていた。野鳥だかなにだかが飛び立つ音に弟が震える。心細さが風とともにひゅうと訪れた。    俺たちは忌み子なのだろうか。  そうなのかもしれない。俺たちが物心ついた頃にはひそひそと後指を指されていた。  ある日母は突然身ごもり、俺たちが生まれた。父親は誰とも知らぬ。それに双子は不吉と昔から言われていた。  加えて俺たちにはもう一つ問題があった。  俺たちは額に小さな角があり、普通より犬歯がするどかった。母親は手ぬぐいで角を隠し、口を開けぬよう俺たちに教えた。  生まれたものは仕方がない。  母にとって俺たち二人は腹を痛めて生んだ自分の子だ。他の村人からはすでに村八分状態だったけれど、家族三人でそれなりに穏やかに、ひっそりと生きてきた。  それから俺たちはおそらく普通の子どもより力が強かった。だから母一人子二人でもなんとか小さな畑を耕し暮らしてのけていた。
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