牙と追憶

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 ここを離れないのは理由がある。  ここは村から町へ抜けるための唯一の道なのだ。だからここを塞ぐ。通ろうとした村人は老若男女問わず皆殺しにして、食わずに村に投げ込んだ。  食うにも値しない。これは復讐なのだ。食べるために殺すのではなく、殺すために殺す。村人が母を殺したように。復讐だ。俺の心は時間が経つほどに怒りに埋め尽くされていった。  そしてその日、俺と弟は村を滅ぼすことを決意した。十分に、力は整った。 「そろそろ行きましょうか」 「あぁ、そうだな」 「でもその後はどうしたらいいんでしょう」 「その後? どこか別の場所に移って静かに暮らそう」 「そうですね」  その作業はたいして難しくはなかった。  昏い、暗い夜。  弟は霧で音を閉じ込め俺が見張り、家ごとに皆殺して回った。10より幼いと思われる子どもはそのまま残した。されたことを返すのだ。因果応報。  普通の子どもでは生きられないだろうが、それは俺たちの事情じゃない。  丑三つのころに初めて全て終えた時、未だ陽は開けていなかった。  宵闇の中で弟の呟きが聞こえた。 「これでようやく、心安らかに暮らせますね。兄さん」
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