トラッキングデバイス

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 全人類へのトラッキングデバイス埋め込みが成功してから三十年。トラッキングデバイスが与えた医療への影響は凄まじく、人が重病を患うケースはほとんど無くなった。  健康寿命と平均寿命の差は僅か半年になり、死因の九十九パーセントは老衰となった。第十二次AIブームが到来して以降、政府の一部の中枢機関を除いてほぼ全ての労働は訓練されたプログラムが行うようになった。  労働による過労死、自殺が起きることは無く、争いによる他殺の例も最近は聞かない。  しかしある日、飲食を楽しんでいた若者グループが突然心肺停止状態になる事件が起きた。トラッキングデバイスは正常に作動し、直ちに病院へ運び込まれたが手遅れだった。  あくる日もあくる日も、立て続けに人は死んだ。トラッキングデバイスのログを解析しても死因は解明できず、むしろ死亡した者は皆、極めて健康的であった。  死亡者数は指数関数的に増えていき、政府の中枢機関が動き出す頃にはかなりの数が死亡していた。  誰もが大規模なサイバーテロを疑った。政府の陰謀論ではないかと主張するものもあった。  人々は何故こんな怪奇な事件が起きているのかを真剣に語り合った。ただ意外なことに、パニックに陥るような人はほんの僅かだった。
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