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斎藤は無人島に研究所を構える独立機関の所長だ。その無人島は政府が管理する領土範囲外に位置しているため、研究チームの戸籍はデータベースに登録されていない。それは、彼らが世界で唯一トラッキングデバイスを埋め込んでいないグループであることを意味する。
最初の不審死が起きて以降は、研究の全リソースをトラッキングデバイスに注いでいる。この研究所には日夜、独自のルートを利用して死体が運ばれてくる。対象は生前に病理解剖へ同意していた人のみだが、過去に例を見ない量の死体が安置所に保存されている。
解剖学において、斎藤の右に出るものは世界にいない。解剖は連日行われたが、トラッキングデバイスのログが示すとおり健康に異常があるものは見られなかった。
トラッキングデバイスが脳に対して何らかの悪さをしていることは間違いないが、脳が死んでしまった後ではどうしても得られる情報が少ない。通常は心臓が止まると脳への血流も止まり、約三分後には脳も完全停止してしまう。
斎藤は本島へ出向き、生前の人間の脳波を調べることにした。斎藤率いる研究グループがフェリーで移動している間に、本島で活動している研究アシスタントである神谷と連絡をとり、被験者を集めてもらった。
「所長、大変だったんですよ。奴ら、ここに呼んできては死に、呼んできては死んでしまうものですから」
「すぐに、前頭部双極誘導により導出された脳波を計測しろ。あの被験者もいつ死ぬか分からんからな」
「はあ。労いの一つくらあってもよいのでは?」
脳科学においても、斎藤はある程度の実績がある。しかし脳波計測は難航した。計測途中にも関わらず、被験者は息絶えてしまうのだ。
目の前で人がバタバタ倒れていく様に最初は皆戸惑ったが、人はすぐに慣れる。もう誰も何も感じなくなっていた。
恐ろしいことに、斎藤は興奮していた。死ぬ瞬間の脳波をリアルタイムで見れる機会なんて滅多にない上に、斎藤はある傾向に気づいていた。
「何ニヤニヤしてるんすか、所長」
「α帯域の相対パワーであるエネルギー率が限界まで上がりきり、高止まりしている」
「はて、それが何を意味するのでしょうか」
「...」
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