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【ふふふ、良い質問だね。まぁそんなものだよ。人間たちが住まう物質の世界、表界の裏にある精神世界、裏界に住む思念体、
それが、私達怪異だよ。】
「思念体………でもあの犬の化け……怪異はコンクリートを砕いたり俺に体当りできていた、実体を持ってたぞ」
【そりゃあの三下………『追跡』の怪異はもう混魂の儀を行ってるからね。】
「混魂の儀………?また知らないワードが出てきたな………」
やや渋い顔をしている崇人が面白いのか『因果』の怪異は小さく笑いつつ、自分の体を構成している靄を腕の形にし、それをそのまま自分の体に突き立てる。何かを探すようにぐりぐりと腕を動かし目的のものが見つかったのを確認するとそのまま腕を靄から引き抜いた。
その手ににあったのは得体のしれない紫色の気体をまとった禍々しい黒球であった。
「それは………なんだ?」
【ふふふ、わかってるくせに。これは私の魂、怪異はみんなこれを持っていてもしこれが破壊されれば例外なく死ぬ。
この私の魂とあなたの魂をあなたの願いを繋ぎにして融合させる、それが混魂の儀】
「混魂の儀………なるほど、そのまんまだな。………メリットとデメリットは?」
【メリットは、まず人間側は常人よりも体が丈夫になり怪異絡みの攻撃以外では早々死ななくなり願いに応じた権能を使うことができる。また儀式を行った怪異を呼び出し、ある程度自由に従わせることができる。
怪異側は物質世界を自由に動き回れ干渉できる受肉体を得ることができる。
逆にデメリットは、何となくお察しと思うけどどちらかが外的要因で死んだらもう片方も死んじゃうってこと】
「………デメリットに関しては予想通りだな。だけど願い、という言葉が時折出てるが、まさか、ランプの魔人みたいに何でも願いを叶えてくれるのか?それとも猿の手みたいに望まない形で叶えるってタイプか?」
【まさか、私達はただ願いを叶えられるであろう異能を与えるだけ。それを使ってどう願いを叶えるかは怪異憑き次第だよ。
じゃ、説明はこのぐらいにしておこうか、そろそろ禍舞台も持たないし】
『因果』の怪異の言葉を受け、崇人は周りに目を向けると彼らを覆っていた黒い光のドームがテレビの砂嵐のように掠れ始めていた。『因果』の怪異は今は思念体、故に長時間の維持はできなかったのである。
だがそれに気にせずやつは自分の手に持っていた自分の魂を崇人に向かって投げ、崇人もこれをキャッチする。
それを確認すると、『因果』の怪異は黒靄の手を崇人の方へと向け問いかける。
【さぁ、返答の時間だよ三善崇人君。
君はどんな願いを叶えたい?この私、『因果』の怪異に教えて】
「俺の………願い…………」
そう言われた崇人は吸い込まれるような黒球を見つめながら自らの願いを考える。そして自分の中である程度何かが固まったのか、ゆっくりとベッドから降りて立ち上がり少しずつ話し始める。
「…………因果応報。善人には祝福が送られ悪人には天罰が下る。だから人は正しくあろうとする、それが当たり前だと思った。でも………そんなものには何の意味も価値もない。それに気がついたのは最近だ。
父さんや母さん、桜夜……俺の家族を襲った悲劇は俺達に何の非もなかった。犯人の動機が理解不能なこの事件に俺や健太が巻き込まれたのだってそうだ!
俺も俺の大切な人たちも!!何も悪くないのに立場を、幸福を奪われて!!挙句の果てに命まで奪われるだ?!ふざけるなよ!!」
【…………………】
徐々にヒートアップしていく崇人の口調は彼を知っている人間なら思わず動揺してしまうほど強い怒りに満ちていた。彼の怒りと怨嗟の声を『因果』の怪異はただ黙って聞いていたが、やつにもし表情があるとすればきっとどこまでも邪悪に笑っていただろう。
やっぱりコイツは当たりだったと。
そんなことはつゆ知らず崇人は痛む体を無視してどんどん歩いていき、最終的に『因果』の怪異まで2,3歩程度の距離まで近づき、宣言する。
「どれだけ人事をつくしどれだけ天命に願っても、身に余る不幸も乗り越えられない逆境もどこまでも理不尽にやってくる………!!俺は、それが赦せない!!
こんな理不尽な因果が正しいと神や仏がほざくなら!!俺の大切な人たちの幸福を穢すなら!!!そんな神や仏、俺がすべて否定する!!
だから力を寄越せ!!歪んだ因果をバラし、正しく縫い治す力を俺に!!!」
【………心のこもった自己中な願い、ありがとう。さあ行こうよお兄さん。
私と一緒に因果を正しにっっ!!】
『因果』の怪異が叫ぶと崇人の手に持っていた黒球は彼の体へと溶け込むように一体化しその瞬間、白い光が彼ら二人を包み込み禍舞台を破壊する。
それによって場所は普通の病室へと戻るが、そこにはのびている若い警察官しかいなかった。
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