逆恨ノ追跡者ー蹂躙

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逆恨ノ追跡者ー蹂躙

 そしてそのまま引き金を引こうとした次の瞬間、彼の右脇腹に強烈な痛みが走りそのまま凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされ壁に衝突してしまった。あまりにも突然の出来事に藤岡は目を抜くもすぐに壁から出て自分を蹴飛ばしたであろう人物の方に目を向ける。  白を基調色とした金属質な鎧と暗い紫色のボロ布を無理やり繋ぎ合わせたようなアンバランスな格好をした人物は吹き飛ばした藤岡の方には目もくれず、血溜まりの中で命の灯を消そうとしていた健太の方に注がれていた。白紫の人物はわずかに右手に持っていた両刃短剣を強く握りしめるも、すぐに力を抜きしゃがみこんで健太に向かって手を向ける。  すると、瞬きすらしない内に骨折により変形していた健太の体は元に戻り裂傷打撲等の怪我も、挙句の果てに大量の血溜まりすら消えていたのだった。これには流石に藤岡も目をむくしかない。 「ダメージを直す、回復の異能………?!いや、だったらどうして血溜まりすら消えている?!………どんな力を使ったぁ、三善崇人ぉ!!」 「お前に………教えてやる義理はない、藤岡雄二ィ!!」  白紫の人物、崇人は立ち上がると金属とボロ布の半々仮面の奥に潜む目を血走らせながら、ほぼノーモーションで藤岡に向かって走り出す。それと同時に藤岡も銃から音速以上の弾丸を発射するも、崇人はわずかに体をそらし紙一重でかわす、まるで何の障害にもならないとでも言わんばかりに。  直感で危機を感じた藤岡は自身の左側に体を飛ばし崇人の突き出した短剣の一撃を回避する。短剣は壁にクレーターを作りつつ突き刺さるが、崇人は気にせず短剣を右側、藤岡が回避した方向に思いっきり振り抜く。すると壁は砕けその破片が散弾のように藤岡に直撃する。  怪人化しているため握りこぶし程の瓦礫が無防備な状態で頭部や手足にぶつかった程度では死ぬことはないが当然痛みはいく、そのせいか藤岡は地面に倒れ込んでしまう。しかしそんなことも気にせず崇人は熱を感じさせない言葉で藤岡を刺す。 「………立てよ人の親友殺しかけて、恩師の先生まで危険に晒してこれで済むと思ってるのか?  ………生憎俺はお前の言う通り下衆なんでな、やられたことは10倍返しにしなくちゃ気が済まないんだよ」 「………バカが、調子に乗ってんじゃねぇよ………ガキが!俺がこの力を得て何年経ってると思ってる………昨日まで怪異のことを何も知らなかったカスに………、  負ける道理なんてねぇんだよ、瘰患ッッッ!!!」  地面に這いつくばる藤岡が地面を叩いた瞬間、彼のそばの地面に黒いシミが広がり始めるとそのシミから女性の手が飛び出し藤岡のそばにいた崇人をその鋭い爪で切りつけようとする。だが崇人もそれをすでに察知していたのか短剣であっさりと受け流し軽く後ろにステップする。  不意打ちをかわされたことに藤岡は舌打ちをするも、膝に力を入れて立ち上がり、地面のシミから完全に姿を表した犬の体と女性の腕を持つ怪異、瘰患とともに崇人をにらみつける。 「…………一度召喚した怪異は自分の判断で手元に戻せるのか。知らなかったな」 「はっ、抜かしてんじゃねぇよ。さっきは頭に血が上って油断したが、さっきと同じような戦術が効くと思うなよ………!!」 【クウクウ、餌ヲクウ……!!】  銃口を敵へと向ける藤岡と牙を打ち鳴らし威嚇する瘰患に相対するが、崇人はわずかにも焦らず体を覆うボロ布の懐からあるものを取り出す。それは黒と茶色で構成された、手のひらサイズのクマのぬいぐるみであった。一見可愛らしいがその実、体に無数の縫い針が刺さっており形容しがたい悍ましさを放っていた。 「丁度いい、健太と土屋先生を避難させたかったし………コイツの実力も確認しておきたかったからな。  ………さぁ出番だ、狡挫僂(こうざる)
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