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心の中で叫ぶと、彼の体に変化が生じる。喉が不自然に膨らみゴボゴボと下品な音が聞こえると次の瞬間、藤岡の仮面は口が開いたかのように禍々しく割れその奥から一発の格子模様が入った赤く太い弾丸が吐き出される。
その弾丸を中折式銃に装填すると、銃を持っていた右腕のアーマーは変化が生じ獣の大顎が出現し、銃は銃身が倍以上に伸び銃口を黒狼を捌く崇人へと向ける。
(因果操作………もしそんな規格外の力があるなら、なんでソイツで俺を直接殺さない?いやたとえ殺せなくても直接的に害することはいくらでもできるはず。それをしないってことは、奴らの能力の効果対象には、怪異と怪異憑きは含まれていない!!それにこの異能には、
決定的な隙きがある!!そこをつく!!)
考えながら照準を合わせているうちに藤岡に気がついた崇人は短剣で黒狼達を動けなくしつつ短剣の投擲フォームを取る。この時今までと違い異能使用時の余波のようなものを藤岡は感じ取り冷や汗をかきつつも理想の状況になったことを内心狂喜する。
(因果操作の大技!!持久戦になれば敗色濃厚だから一撃に勝負をかけるってことかァ?!だが!!!)
「『因果鏖縫』!!業剣・衝大無!!」
「魔神獣牙弾!!!」
崇人の投げた瞬間、彼の身丈の5倍以上に拡大された大剣と藤岡の右腕アーマーの顎パーツとともに発射された巨大な魔獣のオーラを纏った弾丸はその間にいた黒狼たちをミンチにしつつ激突する。
はずであった。
なんと魔獣の弾丸はありえない軌道で大剣を交わしそのまま崇人たちの方へ向かっていくのだった。それにすぐ気がついた崇人は黒狼たちを盾にしつつ横に移動する。しかし魔獣の弾丸は構わず彼を追跡し過程にいた黒狼たちを喰らいその力を上げていく。
「ハハハハァ!!その弾丸は特別製!!対象以外の物質に当たるとソイツを喰らい威力と速度が上がる!!更にぃ!!自動追尾だけじゃなく俺自身での操作も可能!!そしてぇ!!!テメェのこのバカデカ剣はぁ!!!
餓狼無間壁!!」
自分に猛スピードで迫る大剣に対し藤岡が手を前に出すと彼の後ろで待機されていた10匹の黒狼が前に出て肉壁となる。もちろんソイツらだけではまさしく犬死以外の何物でもないが、黒狼達の体が切られる度にその切り口から新しい黒狼がネズミ算式に増殖し次々と飛んでくる剣の前に立ち塞ががる。それでなお大剣の速度は変わらないが徐々に徐々にその軌道はずれていき、藤岡の真横を過ぎ去ってしまった。
「凌いだ、凌いだぞお前の攻撃を!!!さぁ、脳みそぶち撒けろぉ!!!」
【君がね☆】
勝利を確信した藤岡の耳に入ったのはこの戦場には不釣り合いな鈴を鳴らすような声。そこに目を移せばさっきまで黒狼たちに囲まれていた狡挫僂は目と鼻の先におり、モーニングスターを振りかぶっていうた。さっきまでとは一転喉が一気に干上がる感覚を藤岡は覚えるが覚悟を決め命令する。
「瘰患!!俺ごとやるつもりで裂け!!!身削爪!!!」
藤岡は両腕で自分をガードするように前に出し瘰患に最後の怪言を唱える。怪異の戦闘能力は怪人化した怪異憑きの軽く五倍、今から回避行動をとってももはや間に合わない。だがしかしここは自分たちが作った禍神舞台、この中では自身の異能を強化拡張して使用できるだけでなく怪異憑き、怪異の基本スペックを大きく底上げすることができる。つまりは、自分を森に吹き飛ばした一撃より重かろうと一発は耐えることができるはず。
そして耐えることさえできれば、後は瘰患の巨大な爪で狡挫僂を引き裂き奴らを殺すことができる。
(ここを、ここさえ耐えれれば!!俺n)
だがこの時、藤岡の思考は一気に真っ白になる。しかしそれはしょうがない、なぜならば彼の視線の先、自分に迫る狡挫僂に爪を振りかぶっていた瘰患。
その瘰患が真横からいきなり飛んできた自分の特別弾丸に下半身を食われ、吹き飛ばされたのだから。
衝撃的な光景と自分の魂を持っている瘰患の致命的なダメージの痛みで思わず叫び声を上げてしまいそうになるが、そんな物言う暇すらなかった。脳天に凄まじい衝撃が発生したと思ったらいきなり地面に叩きつけられた。恐らく気を取られているうちに脳天を叩かれたのであろう、すぐに立とうとするが。
何もかも遅かった。
「そーれ、ソレソレソレソレソレェ!!!」
狡挫僂はモーニングスターの鎖を短く持ち地面にうつ伏せで倒れている藤岡に対し何発も連続してモーニングスターを叩きつける。まるで餅つきでもしているかのように軽快な掛け声とともに振り下ろしていくが、藤岡からは叩かれる度に肉が潰れ骨が砕け血が吹き出す陰惨な音が聞こえてくる。
モーニングスターによる殴打が10発を超えたあたりで空間にヒビが入り始め、無数の黒狼たちは姿は影に溶け、赤い月は沈み始め、元の場所へと彼らを無事帰させる。
最も崇人と狡挫僂はほぼ無傷で禍神舞台の発動者、藤岡は息を吸って吐くだけの肉塊になり、瘰患も下半身がなくなり徐々に体が崩れ始めていた。
どちらは勝者でどちらが敗者か、物心付く前の子供にすらわかるほどはっきりしていた。
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