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キャリーバッグから視線を移して、友人の顔を見据えた。
僅かに目を見開いた羊が、「え?」と虚を突かれたように首を傾げる。
「結局、そこの問題なんじゃない? こうするべきとか、これが正解とか、そんなのない気がする」
個人差があるのなら、そのカップルによって「正解」は異なるはず。結局のところ、相手の気持ちなんて分からないのだから、せめて自分の気持ちに正直に動くしかないと思うのだけれど。
「私は……」
羊が口を開いたまさにその時、畳の上に転がっていた彼女のスマートフォンが震えた。
噂をすればなんとやらで、どうやら狼谷くんから連絡がきたようだ。
「ごめん、私ちょっと出てくるね」
慌てたように部屋を出て行った羊を見送り、ふう、と軽く息を吐く。
今更ながら自分の発言が恥ずかしくなってきた。羊には偉そうに言ってしまったけれど、私だって――いや私の方がむしろ、色恋沙汰に関しては経験がないかもしれない。
「加夏ってさー、ほんと真面目だよね」
一人胸中で反省会を開催していたところで、灯が突然そんなことを言い放った。
さっきの発言はやっぱり不自然だったのかな、と不安に駆られつつ、努めて平静に返事をする。
「つまんないって言いたいのー?」
「あは。そうは言ってないでしょうよ」
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