モグラ生活

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モグラ生活

 もうどれだけの月日が経ったのだろう。年の取り方は円錐型で、年を取るにつれて月日の流れが速く感じるのはその法則によるものだ、と誰かが言っていたことを思い出した。  だけどもう私には、月日の流れも年を重ねることも、何も関係ない。むしろこんな命はさっさと終わらせたいけれど、そう簡単にいかないのが現実だ。  そもそも私は恐らく何らかの手違いで生まれてきてしまったのだろう。本当に虚しい。最近は家にいるとき、耳栓やイヤホンをしていることが多い。隣近所の生活音が気になるからだ。そうして外部の刺激を出来る限りシャットダウンして私は暮らしている。部屋を片付ける気力も失せた。虫が出ても昔ほど驚かない。必要に応じて自分で退治もする。食事は必要最小限で良い。作るのも面倒なので、最近では買ってきたもので済ませることが多い。  ここは都心からそう遠くない場所に位置する地域で、このアパートも駅からそう遠くない場所に位置するわりには家賃が安いので、割と常に満室に近い状態だ。空室が出てもすぐ埋まる。けれども住んでいる人たちは得体の知れない人が多い。私もその1人だが。私は働いていたこともあったが、今は働いていない。昔働いていた時に節約しながら貯金していたので、それを切り崩して生活している。  最も私は物欲が少なく、働いていた時から服や化粧品なんかをあまり買わなかったので、それもあってそれなりにお金が溜まった。当時は「いつか結婚して子どもができた時のために」と思い貯めていたお金だったが、残念なことに結婚も出産育児も私の人生とは無縁だったので、そんな願いも叶わなかった。  私は異性に好かれない容姿な上、コミュニケーション能力も低いからだ。ただでさえなかった洒落っ気は一層失われ、今では毎日寝間着だか部屋着だか、そんな恰好で生活している。  昼間もカーテンを閉めて生活している、特に夏は。直射日光が眩しくて、猛暑日の太陽の光は例えエアコンのきいた部屋でも、浴びてしまうとクラクラする。  私は夏が苦手だ。夏になると海だのプールだのはしゃぐ人も多いが、そもそも一緒に出掛ける人もいなければ、アウトドアを満喫できる能力も私には備わっていない。家族とももう何年も会っていないし、会いたいとも思わない。  好きな時間に寝て起きて、好きな時間に何かを食べる。特に不満もない毎日。雑然とした暗い部屋で過ごす日々。時折チャイムが鳴っても基本的に出ない。そんな生活をしているから、何が夢で何が現実か区別もできないので、あの夜のことも夢か本当か分からなかった。
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