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【失恋にて一人旅】
マリはもうすぐ三十路だ。
あの時計の針が真上に来たら、もう泣いても笑っても、裸踊りで町内一周しても、鼻からうどんを啜っても、もう2度と20代には戻れないのだ。
決めたかった!決めたかったのにっ!!
ここが銭湯だったらきっと、タオルを噛っていただろうと思う。
いや、銭湯でなくともタオルは噛れる。
今からほんの数分前に、マリは5年間も付き合っていた彼氏と別れた。
あと数十分で30歳の誕生日を迎えようとしていた矢先にマリの人生に思いもかけない事が起こった。
「別れてくれないか」
彼の言葉は陸橋の下でもないのにマリの脳内で反響した。
「いいわよ」
と、理由も聞かずに別れられるほどマリは物わかりが良い訳でもないし、もう若くもない。
「え・・・どうして!?」
と聞くのが精一杯だった。
「仕事に集中したくて。マリもうすぐ30だろ?オレ、結構プレッシャーなんだ」
「な、なんで!?私、何かプレッシャーかけるような事した!?」
彼は参ったな、という顔で頭をかきながら
「いや、存在自体がプレッシャーなんだよ」
と言った。
ソンザイジタイガプレッシャーナンダヨ。
もうあと数十分で20代を終えるかという時に、彼の言葉は私を崩壊させた。
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