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ドアを開けて、ものの1分超える間もなく、走れと書かれている意味が分かった。
狭い通路びっしりに人が立っているのだ。
それは誰が見ても売人の洞窟だった。
"生きて帰れない"
彼女がそう言った意味がわかる。
マリは、駆け抜けた。
こんなに人々の間を駆け抜けたのは歴史上たぶん私とメロスくらいだ。
そう思いながら駆け抜けた。
"ヘイヘーイ"
"彼女!ヘイ彼女待ちなよっ"
外国人の男たちがマリを捕まえようと手を伸ばしてくる。
臭いっ。臭すぎるっ。
通路全体に薬の匂いと思われる甘い匂いが充満している。
息をするだけで、体内に何か悪いものが蓄積されていくみたいに身体が重く感じた。
通路が異常に長い。
体育がオール2だったマリにとって走る行為自体が自殺行為だ。
しかも、足も遅い。
私は今メロスだ。
誰かを助ける訳でもないけど、私はメロスなんだ。
メロスは途中で飲んだり食ったりしたかもしれないけど、私はヤクを飲んだり打ったりしない。
ただひたすら自分に忠実に走るメロスなんだ。
すると、自分の両脚に羽根が生えてきたみたいに脚が軽くなった。
私ってこんなに速く走れたんだ!!
なんでもっと人生の前半で覚醒しなかったんだろう?
それもそのはずだ。
違う意味でマリの身体は"覚醒"し始めていたのだから。
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