1章

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「待ってくれ! 君が既婚者なんて聞いて」 「お願い、払って……」  話を遮るように払ってくれのお願い。 「……という訳だ。払わないと裁判になるよ。証拠は十分ある。君も騒ぎになりたくないでしょ? 今週までに払ったらなかったことにしよう」  一方的に言って男女二人は辞去(じきょ)した。  そんな馬鹿な。俺は不倫をしたというのか?  不倫なんかドラマや別世界の話だと思っていた。  同級生や会社の同僚やよその部署で不倫がどうのこうの、離婚してかなり揉めた話を散々きいてきた。  なぜ気づかなかった? そんな素振り全く見せなかった。  指輪なんてしてる姿なかったし、お互いの予定をすり合わせてデートをしていた。  歳は二十八歳。自分と三つ下の女性。  いつも自分に対して優しくて、口調も丁寧で、一緒にいて心地よかった。  いつかこの人と一緒にいたいと思っていたのに。
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