1章

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 七つ星駅商店街は午前中から閑散としている。  周りはシャッターが閉まって店が開いているのはわずかだ。  老朽化や店主の高齢化、後継者がいないなど事情は様々で店を畳んでいるのだろう。  商店街の中に小綺麗なマンションの一階にあるテナント――よろず屋ななつ星である。  パッと見は小さなシャレオツなカフェに見える。  入り口前の立て看板には『家事代行・エアコン工事・草むしりその他諸々引き受けます。よろずやななつ星』と白のマーカーで書かれている。  ゴールデンウィークも終わり、五月中頃にも関わらず暑い。  半袖で一日過ごせる。 「さーん、ドライつけましょー」 「そうだねー。あっつ! 今日夏日じゃない?!」  すずらんは七分袖のブラウスをパタパタさせながら、室内の気温付きの壁掛け時計を見る。二十七度だった。 「今日夏日ってネットの天気予報アプリに書いてありました」  が暑さに対してうんざりそうに室内の窓を閉めていく。  よろず屋ななつ星の建物の中は地味に西日がキツイ。 「昔はこの時期涼しかったのに、段々夏と変わらなくなってるわー」  デスクでパタパタと()(ぼし)町町内会のロゴが書かれたうちわを扇ぐすいせん。  社内は精密機械が多いので暑さが大敵だ。下手すると壊れてしまう。 「で、今回の案件はマッチングアプリ?」 「そうなの」  すずらんは依頼主である瀬川淳平(せがわじゅんぺい)の話を大屋と同席して聞いていた。
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