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顔を上げるとお店の入り口から王子様が入ってくるのが見えた。
「え! うそ、本当に?」
玲も振り返ってお店の入り口を見ている。向こうも気が付いたようだ。……というか、キョロキョロと店内を見回し、私がいないか確認しているようにも見受けられた。それがあまりにもショックで——。
「……ちょっと、行ってくる」
意を決して立ち上がり、王子様がいるお店の入り口に向かって歩く。逃げるようにそそくさとお店を出ていく王子様。
「桃香、追いかけな。私、待ってるから」
「うん」と頷き、後を追いかけた。
「あの! 待ってください!」
お店を出てすぐに呼び止めると、チラッと私の方を見る。でも、足は止まらない。
「話を聞いてください。あの!」
必死の呼びかけにようやく歩みを止めて私の方を振り返ってくれた。
はぁ、よかった。
「あの、なにか誤解をされているようなのですが、私はあなたに付き纏っていませんから」
「……それを、どう信じろと? 僕が乗っている電車に乗って来たし、この店にも僕が来る度に居るし……」
怪訝そうに棘のある言葉を吐き捨てられる。その表情や声までカッコいいと感じてしまう私はかなりの重症だ。
「信じられないかも知れませんが、本当に偶然で——」
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