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がっかりしながら玲が待つ喫茶店に戻った。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん。どうだった? 王子様とは。……まぁ、聞くまでもなさそうだけど」
「『その言葉をどう信じろと?』だってー」
『王子様』改め『あの人』の口調を真似ながらわざとらしく玲を見る。盛大にため息を吐きながら残りのアイスコーヒーを飲み干すと「本当にごめん。行こうか」と席を立った。
「——でもあの王子様、私どこかで見たことある気がするんだよね」
会社に戻る途中で先程のことを詳しく話していると玲がぼんやりとそんなことを言い出す。
「え? どこ? どこで見たの?」
「それを思い出せないんだよ。つい最近だと思うんだけどさ」
営業部の玲は会う人も多いからそのうちの一人なのかも知れない。
「どうしよう。どこかで会っちゃったら。私が言ってること信じてもらえないってことだよね」
途端に不安になってきた。
「大丈夫だよ、きっと。1週間でしょう? それこそ見ず知らずの人がそうそう簡単に会うわけないんだしさ」
「そうだよね。とりあえず、あの喫茶店には近づかないようにして電車もいつも通りのに乗るようにしよう」
そうして月曜日からあの人に会わないように願いながら過ごしている。今日は木曜日、あと1日だ。
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