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立ち上がって呼び止めたけど、距離があるせいか、私の声が小さいせいなのか気付く気配がない。周りにいた数人が私に視線を向けている。仕方なくレジに向かう男性の元に皮張りの手帳のような物を持って小走りで近づいた。
「あの、これ、お忘れじゃないですか?」
長身の後ろ姿に声をかけると訝しげな表情でこちらに振り向いた。その顔を見て思わず目を見開く。
「っ!」
王子様! な、なんでここに?
「あ! ありがとうございます」
パッと表情を変え有り難そうにダークブラウンの手帳のようなものを受け取る王子様。
声までカッコいい……。
低音の落ち着いた柔らかい声。呆然とする私の手から手帳のようなものは離れたけど、そのまましばらく固まってしまった。目の前にいる王子様は、ペコっと小さく頭を下げて再びレジに向かおうとしている。
「……毎朝『京浜シーライン』で通勤していますよね?」
思わずそんな事を口走ってしまった。「え?」と途端に怪訝そうな表情で私を見る。そのまま不審者から距離を取るように無言で私から離れて行った。でも、そんなことも気にならないほど舞い上がっていた。
なんでこんな所で会ったの? 運命? 運命だよね?
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