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今日は文庫本を真剣に読んでいる。王子様が座っている長イスと向かい合って立つ私は、数年前に流行ったお気に入りの曲たちを聴きながら、いつも通りその様子をチラチラと観察していた。
気付いてくれなさそうだなぁ。
少し離れた場所に座る王子様の視線はずっと分厚い本に注がれている。次の駅で終点だし、もう半分以上諦めた。徐に読んでいた文庫本をカバンにしまった次の瞬間——視線を上げた王子様と一瞬目が合った。
何気なく視線を流した王子様だったけど、もう一度私に視線を向け凝視している。
気付いた? そう、あの時の私です。
念を送るようにじっと目を合わせた。
——きっとこれで恋が始まる!
そんな期待をしている私をよそに、何かに気づいたように王子様はどんどん訝しげな表情に変わる。そして、終点の駅が近づくとそそくさと座席から立ち上がった。駅に着くと何度か後ろを確かめながら逃げるように早足で階段を降りて行く。
……え。何で? どうして、そうなるの?
王子様の後ろ姿を目で追いながら呆気にとられた。でも翌日、その行動の意味を何となく理解する。
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